修学旅行生を案内するため、年に10回以上も首里城に通っていた興南高校3年の大蔵香澄さん(18)。同中学校に入学した2015年から約6年間、首里城をガイドする「興南アクト部」で活動してきた。これまでに延べ4千人を案内し、首里城に対する思い入れは強い。「首里城が燃えているのをテレビで見た瞬間、泣き崩れた。焼失の事実を受け入れられるまでには時間がかかった」と1年前の深い喪失感を振り返る。
大蔵さんにとって首里城は多くの人と出会い、絆を深めていく場所だった。思い出を形にしようと、大蔵さんは今年4月ごろ、首里城をデジタル上で3次元の形状に復元する「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」に自分が撮った写真を提供し、デジタル世界での“再建”に思いを託した。
同プロジェクトは、昨年11月に始動、焼失した首里城を一般からの提供写真でデジタルの世界に3Dモデルとして再建する取り組みだ。12日現在、世界中の国々の3千人以上から約8万枚の写真や思い出のメッセージが寄せられている。
プロジェクトメンバーの一人でエンジニアの宮本優一さん(36)=豊見城市出身、神奈川県在住=は「こんなに写真が集まるとは思わなかった」と驚きを隠さない。宮本さんは首里城焼失後、コンピューターグラフィックス(CG)で首里城を再現できないかと考えていた。ちょうど同時期に東京工業大特任准教授の川上玲さん(元東京大学特任講師)がツイッターでプロジェクトへの参加を呼び掛けているのを見て、すぐに手を挙げた。
精密に首里城を再現するため、約8万枚の提供写真の画像認識作業を1カ月かけてボランティアで担った。宮本さんは「首里城は沖縄のシンボルだ。沖縄戦の後に復元された数少ない大規模な文化財でもあり、復元の力になりたかった」と語る。
同プロジェクトを立ち上げた川上さんは「沖縄が大好きで、夫とこれまで何度も訪れた。沖縄県民を元気づけたいという気持ちが一番だ」と、デジタル再建への思いを語る。「完成するまでに1年はかかると最初から想定していた。すごくたくさんの人からの写真提供のおかげで、形にすることができた」と多くの協力に感謝した。
同プロジェクトのホームページでは現在、デジタルで復元された首里城正殿の外観を見ることができる。今後は正殿のほか、南殿や北殿などの3Dモデルも公開する予定で、プロジェクトは走り続けていく。
(呉俐君)
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