沖縄科学技術大学院大学(OIST、恩納村)のマリンゲノミックスユニットの新里宙也研究員(37)らは10日までに、沖縄周辺海域のサンゴの遺伝情報を解析した結果、海流による幼生の供給はあまり見られないとする研究結果を発表した。従来、サンゴの幼生は海流によって広がり、生息地を拡大していると考えられていたが、数十年レベルでは移動は限定的で“定住”していることが分かった。今回の研究結果は、これまで幼生供給地域での保護に意識が集まりがちだったサンゴ礁保護の在り方に新たな視点を与えるものとして注目されそうだ。
同研究の一部は県のサンゴ礁保護保全事業の支援を受けており、新里研究員が県庁で会見して発表した。同研究結果は、10日からNature Publishing Groupの公開電子版「Scientific Reports」に掲載される。
新里研究員によると、従来サンゴの幼生は、黒潮などの海流に乗って各地に生息域を拡大していると考えられていた。特定の場所でサンゴが減少しても、他地域から海流によって幼生が供給され、減少地域でのサンゴの再生、回復に役立つと考えられていた。
本研究では、沖縄本島の南部、中部、北部と、慶良間諸島、石垣島、西表島周辺海域からサンゴの一種「コユビミドリイシ」を採集した。155個体のゲノム(遺伝情報)を高精度解析し、個体差を示す情報「SNP(スニップ)」を比較した。
近いゲノムDNAを持つSNP同士をまとめるとほぼ採集場所と重なり、沖縄本島、慶良間諸島、八重山北、八重山南の4グループに分けることができた。このことから近い地域ではゲノムDNAが似て、地域外への供給や移入があまり見られないことがわかり、新里研究員らは海流による幼生の移動は限定的だと結論付けた。
今回の研究結果から新里研究員は「工事や環境変動で一度失われたサンゴが復活するには時間がかかる。サンゴが豊富にある場所だけを守るのではなく、沖縄全域にわたり地域ごとにサンゴ礁を保全していくことが重要だ」と話した。
英文へ→OIST scientist proposes new theory on limited migration of coral reefs in Okinawa