元不良少年、後輩を指導 同じ経験したから伝えられる


この記事を書いた人 Avatar photo 金城 潤
少年らの成長に笑顔を見せる津波古芳美さん(後列中央)と嘉数明さん(同右)。宇根颯杜君(同左)、玉城勝騎君(前列左)、親富祖成海君(同右)もはにかんだ笑顔を見せる=浦添市伊祖のバイクショップ「スパイス」

 県内でそれぞれバイクショップを経営する津波古芳美さん(38)と嘉数明さん(42)が、非行に走る中学生を職場体験で受け入れ、更生に尽力している。2人とも元不良少年で「同じ経験をしたからこそ伝えられることがある」と語る。言葉は荒いが、真剣に向き合う2人の姿に少年らも感化され、立ち直っている。

 職場体験は学校と同じ午前8時15分開始。2人は掃除、接客、整備の手伝いなどを少年にさせ、学校の課題や作文も課す。反抗したり、非行が分かったりしたら怒鳴ることもあるが、職場では少年の話し相手になることを心掛け、勉強の大切さも説く。期間中、親には弁当の手作りを求め、親子の対話も促している。
 「無免許で公道を乗り回すよりは」と、バイクレースにも出場させる。少年らは整備方法を習い、ぼろぼろの原付スクーターを一から整備し、自分で作ったバイクでレースに出場する。
 現在、嘉数さんの浦添市のバイクショップ「スパイス」で職場体験しているのは浦添市立仲西中3年の親富祖成海(なるみ)君(14)、玉城勝騎君(15)、宇根颯杜(はやと)君(15)の3人。いずれも学校で授業妨害を繰り返し、喫煙や深夜徘徊(はいかい)で毎日のように補導されていたが、今では高校進学を目指して真面目に学校に通っている。補導されることもなくなった。
 当初は非行がなかなか止まらなかったが、度重なる喫煙に激高した嘉数さんが、少年らのレース用バイクをハンマーでたたき壊した事件を契機に、真剣さが伝わった。
 宇根君は「嘉数さんとかと話すようになり、大人の考えも分かるようになった。前は夜に捜し回る親をうざいと思っていたが、一生懸命、道を踏み外さないようにしてくれていたのだと気付いた」と話す。玉城君も「昔は何か言われるとすぐにイライラしていたが、今は自分に悪いことがなかったか考えるようになり、忍耐力がついた」と成長を実感する。
 津波古さんは2005年に、自身の中城村のバイクショップ「ジョイ・ファクトリー」で職場体験の受け入れを始めた。13年には嘉数さんも加わって青少年育成のボランティア団体「スクール・トレーニング・ミーティング(STM)」を設立。これまでに40人以上の少年らを受け入れてきた。「子どもに接するマニュアルはない」と語る2人は、悩みながらも意見を出し合い、一人一人に合った接し方を考えている。
 津波古さんの下で職場体験をした宜野湾中3年の紺谷吏由(りゆき)君(14)は「最初は怒られてばかりで逃げることしか考えていなかった。2カ月たったころ、急に『夢を作って目標を達成させよ』という津波古さんの言葉が心に刺さり、学校も職場体験も楽しくなった」と振り返る。以前は学校へ行かず無免許でバイクを乗り回していたが、現在は自動車整備士の夢を持ち高校進学を目指して勉強に励む。
 紺谷君の母、りつ子さん(44)は「津波古さんと出会う前の吏由は金髪で死んだような目をしていた。どう接していいか分からず真っ暗になっていた時に津波古さんと出会い、親も子も救われた」と感謝した。
 津波古さんは中卒で働き始め、学力の壁に苦労した過去を持つ。「同じようにやんちゃしていた同級生にはホテルの責任者も警察官も消防士もいる。何が違うか考えたら、あいつらは早めに不良グループを抜けて勉強していた」と語る。少年らに勉強の大切さを説くのは、そのためだ。
 一方で「弱肉強食の社会を生き残れた自負もある」とも話す。「不良はたちが悪いと思うのは間違い。彼らは本当はいいやつらだ。たちが悪いのは、悪いと教える大人がいないこと。教えるのが俺の役割だ」(稲福政俊)