【与那国】与那国町で十山(とやま)御嶽(うたき)の解体作業が4月17日、住民参加で行われた。昨年の大型台風で甚大な被害を受けた与那国島。「島を見守る神様がいらっしゃる神聖な場所、神事の中心地」と昔から島の人々に大切にされてきた十山御嶽も例外ではなかった。老朽化に加え、台風で拝殿の屋根瓦は大きく崩れ落ち、梁(はり)は折れ、修繕が困難な状態となった。「7月の豊年祭は新しい拝殿で行いたい」。そんな町民の願いもあり、このほど建て替え工事が決まった。
総工費は2千万円。町民のほか、島外に居住する郷友や篤志家、企業からの寄付金が寄せられた。解体作業は公民館役員だけでなく、事前に町内放送を聞いて集まった40人近い町民によって行われた。
現在の本殿は1948(昭和23)年に完成。地元男性は「親からも神聖な場所だ、と教えられて育った。新しく造り変える場に立ち会えたことに、感無量。島全体を守ってくれている場所だから、これからも島のみんなで守っていけたらいいなと思う」と胸の内を語った。
生徒の高校合格祈願のために毎年訪れている与那国町立久部良中学校(東濱一郎校長)は、全教職員で参加。実家が十山御嶽の近くという東濱校長は「友達と隠れんぼをして遊んだ思い出もある」と懐かしさに目を細めた。
与那国歴史文化交流館の準備を担当する町嘱託員の小池康仁さんは「皆さんに一枚一枚瓦を下ろしていただき、大変ありがたい。この瓦は本当に価値のある物なので、いつごろ、どこで造られた物であるかを調査していきたい。今後は、漆喰(しっくい)シーサーの材料や、観光名所の看板の屋根、御願所の修復用にも用いることができ、さまざまな活用方法が考えられる」と熱心に語った。
町教育委員会文化財担当者は「壊して捨てるのは一瞬だし簡単なことだが、昔の人が造った歴史ある瓦と全く同じ物をもう一度造れと言われても、できない。手間がかかったが、残せてよかった」と話した。
敷地内には、戦時中、出征のあいさつをする兵士が上ったコンクリート製の台があり、併せて撤去された。作業に参加した住民からは「そのための台とは知らなかった。この台を再び作らなければならない日が絶対に来ない社会にしたい」との声も聞かれた。
新しい拝殿は6月いっぱいに完成する予定。
(村松友紀通信員)
※注:東濱一郎校長の「濱」は、右側がウカンムリに「眉」の目が「貝」