『「海邦小国」をめざして』 琉球人の「史軸」示す


社会
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『「海邦小国」をめざして』後田多敦著 出版舎Mugen・2400円

 本書には、著者が2000年から15年までに新聞や雑誌等に発表した論稿35本が収載されている。読者対象は、琉球人、日本人と異なるが著者の琉球人としての「史軸」は一貫し「史眼」は鋭い。

 1879年3月、琉球国は近代日本に武力併合され、琉球人は台湾、朝鮮同様に同化・皇民化を強制されたが、琉球人はそれを「沖縄学」で受容した。1945年の日本敗戦でも、琉球人は同化・皇民化の受容心性を総括・清算する絶好の機会を逸し、戦後も自らの手で2度目の同化政策を行い日本帰属を選択、今日の政治・経済・文化の簒奪(さんだつ)(植民地化)と犠牲の強要という事態を招いた。

 著者は、併合以降不動な琉日関係の構図を根源的に問い、「海邦小国」という琉球将来像を提示する。「海邦」とは独自の民族信仰や蓄積・継承された文化・国際性である。「小国」とは近代日本の大国主義に包摂され「立派な日本人」となる過程で、琉球人が忘却・喪失した「琉球人としての歴史の記憶や文化」「真の豊かさ」を再構築するための解放原理である。

 「国境や関係は固定されず、自らの領域や領土の大きさは豊かさの指標とはならない。どこまで交流できるか、どこまで対等なネットワークを築けるかが重要なのだ」。海邦の傾聴とは、歴史に学ぶ事であり未来の羅針盤を確固とする事である。

 本書は4章で構成されている。第3章には現代琉球社会の言説批判論稿7本も収載されており、琉球人としての「史軸」を考えさせる好材料を提供している。「論稿集」はテーマの一貫性を欠く場合が多いが、本書は「海邦小国」の定義、歴史的源流、現代琉球社会の現状と課題という設定で読み進めやすい構成となっている。編集者の力量の高さが伺える。

 「日本官吏空勢を張り、凶兵銃器を振て改革を迫ると雖(いえど)も恐る可からず屈すべからず」(救国運動家・幸地朝常)。日本の植民地主義に抗する琉球人の主体形成の一助として、また「保革対立」では理解不能な「現在史」解明の手引書として、多くの読者にお薦めしたい。
 (比嘉克博・琉球民族史研究者)

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 しいただ・あつし 1962年、石垣島生まれ。神奈川大大学院歴史民俗資料学研究科博士前期課程修了、博士。現在は神奈川大学准教授。

「海邦小国」をめざして―「史軸」批評による沖縄「現在史」
後田多敦
出版舎Mugen
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