『琉球グスク研究』 縄張図で個性読み解く


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『琉球グスク研究』當眞嗣一著 琉球書房・3200円

 本書の著者である當眞嗣一氏は、長く沖縄県教育庁に勤務し、沖縄の文化財行政に携わってきた。この間、首里城をはじめとする「琉球王国のグスクおよび関連遺産群」が世界遺産登録された際には、沖縄県の作業統括責任者として奔走されたことで知られる。

 このような優れた行政マンであるとともに、著者はグスクや戦跡考古学研究の第一人者でもある。その著者が在職中から取り組んできたグスク研究の成果を一つにまとめたのが本書である。
 「世界遺産になったグスク」「グスクとは」「グスク論争について」「グスク研究の方法と視点」「グスクの考古学」「グスク文化と沖縄」「グスクの構造と縄張りについて」「縄張構造から見たグスク」「グスク各論」「各地のグスク」の10章で構成され、文中に必要に応じて、補足が付け加えられている。
 著者のグスク研究の特徴は、グスクの構造を把握するために縄張図を作成し、これを手がかりとしてそれぞれのグスクの個性を読み解くところにある。
 では、縄張図とは何か。これを疑問に思った読者の皆さんは、ぜひ本書を読んでいただきたい。無粋を承知で、あえてひとこと説明するなら、グスクの設計復原図と言えばよいだろうか。
 しかし、縄張図は誰でも簡単に作れるものではない。実際にグスクへ足を運び、ヤブをかき分け、ハブとの遭遇に気を配りながら、積み上げられた石垣や、平たく作られた地面、溝状に掘り込まれた堀跡などを確認し、それぞれの位置と関係を読み取り、図化することによって、やっと完成するのである。
 本書にはこのようにして作り上げた苦心の縄張図に基づく著者のグスク研究成果が集大成されている。本書を片手に、グスク巡りに出かけるのも良い。
 奄美や宮古、八重山地域を含む琉球列島に広く分布するグスクの実態と、グスクが作られる時代の動きをどのように理解すべきか、ぜひとも著者の視点を確認していただきたいと思う。
 (池田榮史・琉球大学教授)
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 とうま・しいち 1944年生まれ。県教育庁文化課課長を経て、県立博物館館長を務める。沖縄考古学会副会長、グスク研究所主宰。共著に「沖縄の城ものがたり」など。