埋め立て同意 子々孫々に責任持てるか


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 沖縄が大きな転機を迎える中、子々孫々への責任を持てるのか。歴史の評価に耐えうる判断なのだろうか。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設をめぐり、政府が求めた公有水面の埋め立てに対し、名護漁協が総会で同意した。これまでも容認していただけに、同意自体に驚きはない。だが、理由を説明した古波蔵廣組合長のあけすけな発言には驚いた。
 「納得いく額を出してもらえば、あすにでも(同意を)出す」「早い話が補償を得られればいい」
 貴重な自然が息づき、組合員の父祖を含めた、多くの漁民が生活の糧にしてきた豊かな海を、漁業補償と引き換えに差し出すことに何のためらいも感じられない。
 埋め立て予定海域は、県の自然環境保全指針で、最も厳格な保全が義務付けられた海域である。
 古波蔵氏は、海を守り抜くウミンチュの誇りをどう考えているのか。その発言は、5年、10年先の目先の利害を最優先する宣言としか映らない。
 東日本大震災から満2年。日本中が命の尊厳への思いを新たにしたその日、名護漁協の判断に複雑な思いを抱いた県民も多かろう。
 「沖縄は金の力で何とでも押さえ付けられる」という印象操作に走る永田町・霞ヶ関の政治家や官僚がほくそ笑む光景が浮かぶ。
 名護漁協と気脈を通じたかのように、安倍晋三首相は普天間飛行場の県外移設は「現実の政策として困難」と初めて発言した。
 主力の戦闘部隊の大半がグアムに移るにもかかわらず、航空部隊との一体性を強調した。官僚作成の矛盾含みの答弁書を棒読みする姿には、沖縄の負担軽減の核心に迫る気迫が全く感じられない。
 政府は移設容認の数少ない団体を過大評価してはならない。埋め立てで消える漁業権は、漁協・漁業者のものとしても、辺野古沖に代替基地を造ることには、県内の全41市町村長が反対し、周辺の宜野座、石川の両漁協も反対している。オール沖縄の民意に揺らぎはないのだ。
 基地の新設・拡張の問題が浮かび上がるたびに、沖縄社会は、残すべき普遍的な価値は何かという厳しい問いを突き付けられてきた。歴史から学び、沖縄は新基地ノーの民意を強めている。
 現行の辺野古沖案は日米が一方的に決めた。沖縄の民意を無視し、政府は埋め立て申請を急ぐ愚を犯してはならない。