<金口木舌>忖度しない裁判官


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 人工知能(AI)の活用がさまざまな分野で広がっている。中国・杭州市で道路状況をAIで分析して渋滞を減らす取り組みがあり、行政手続きの電子化が進むエストニアでも農業関連の交付金に関する手続きなどに活用されている

▼米国や中国では裁判所や弁護士の業務にもAIが取り入れられ「AI裁判官」の是非も議論されている。判断の正確さを疑問視する声や倫理的な観点からの批判もあるが「偏見や思い込みを排除し、人間より客観的な判断ができる」と期待する識者の意見もある
▼福岡高裁那覇支部の裁判官がAIなら、どんな判断をしただろうか。県が敗訴した、米軍普天間飛行場の移設を巡る「関与取り消し訴訟」だ。国民の権利救済を目的とする行政不服審査法を国が利用し、県による埋め立て承認撤回に不服を申し立てた。撤回を取り消す裁決も国が行った
▼「自作自演」ともいえる手続きを裁判所は追認した。前田定孝三重大准教授は「一般県民の感覚と全く乖離(かいり)している」と指摘する
▼9月の第3次嘉手納爆音訴訟の判決も、騒音被害に対する損害賠償を認めながら飛行差し止めは退けた。司法の独立に疑問符が付く判決が続く
▼裁判でのAI利用にはさまざまな課題が指摘される。機械的に判例を踏襲するだけかもしれない。だが少なくとも、人間のように「忖度(そんたく)」することはないだろう。