<金口木舌>ピント外れの世界


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 銀板に焼き付けるダゲレオタイプのカメラがフランスで発明されたのは約180年前。2000年になると撮影画像をメールで送信できるカメラ付き携帯電話が発売され「写メ」という言葉も生まれた

▼スマートフォンなどの普及で国民1人がカメラ1台を持つといわれる今、本紙も読者から画像提供を受けて報道する機会が増えた。プライバシーへの配慮は一層高まり、掲載可否を左右する
▼10月にJR新宿駅で起きた人身事故の現場では、人目を避けるためのブルーシートの中に利用客がカメラを入れて撮影する行為が複数あった。鉄道会社は「モラルを問います」と呼び掛けた
▼会員制交流サイトなどネット上では、掲載許可を得ていない人の顔を加工して見えなくしたり、閲覧範囲を特定の関係に絞ったりした投稿も目立つ。一人一人が他者のプライバシーと向き合う時代だ
▼那覇市内で警察官が令状もなく嫌がる視覚障がい者の顔写真を撮った。職務質問ならまだしも、捜査のためなら何をしても許されるわけではない。令状主義を顧みず時代錯誤だ
▼憲法31条から40条まで刑事手続きを細かく規定した背景には戦前、警察権力が恣意(しい)的に乱用された反省がある。五輪などに便乗し民の情報が必要以上に集められる恐れもある。人権からピントを外した権力がまかり通る。そんな白黒の世界に戻りたくはない。