<金口木舌>「生まれてこないほうが良かった」人はいるのか


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 「生まれてこないほうが良かった」とのタイトルに衝撃を受けた。哲学者デイビッド・ベネターの著書で「存在するようになることは常に害である」と結論付ける

▼生きること自体が害悪で、もはや人類は絶滅すべきだとの響きに戸惑いを覚えずにはいられない。「現代思想」11月号は「反出生主義を考える」としてベネターの思想を特集している
▼そもそも生存に善悪などあるのか。特集で哲学者の森岡正博さんは、生まれてきて良かったのかという議論は「知的なパズル解き」であって「実存的な自分の問題として抱え込んでいる人たちにとっては(中略)自分たちが侮辱されているような気になると思う」と指摘する
▼「僕が生まれたことは間違いだったのか」。死別や離婚のひとり親世帯には適用される税控除を未婚の親にも認めてほしいという要望に対し自民党議員の間には「未婚の出産を助長してしまうのでは」との慎重論が根強くある。未婚の母から生まれた男性はこの発言に自身の存在を否定されたと感じ、苦しんでいる
▼折しも来年度の税制改正に向けて自民党税制調査会が始まった。甘利明会長は未婚の親への支援策を前向きに検討する考えを示した
▼この問題には公明党が前向きだ。与党間の駆け引きを指摘する向きもあるが、人が良く生きられるための議論を「知的パズル」に終わらせてはいけない。