<金口木舌>押し寄せる「海の珍客」


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 「寄せては返す」に続くのは「波の音」か、あるいは「白い波」。目下、沖縄の海岸に押し寄せているのは大量の軽石である。小笠原諸島の海底火山噴火で発生し、県内各地の砂浜を覆った。全く予期せぬことだった

▼古宇利島が見える今帰仁村の海岸にも軽石がびっしり。波の音は聞こえず、石がこすれ合う音が鈍く響く。近所の人だろうか、海岸を訪れた途端、悲鳴に似た声を上げていた
▼灰色に染まった海岸を見て頭に浮かぶのが、タンカー座礁による重油流出事故。砂浜を覆う油は甚大な環境汚染を引き起こした。軽石は沖縄の自然環境に影響しないか気になる
▼タンカー事故とは異なり、軽石漂着は自然現象である。35年前にも小笠原諸島の海底火山爆発で軽石が沖縄にたどり着いた。古くは106年前の1915年7月29日付の本紙が那覇港や本部町健堅の軽石漂着を報じている
▼見出しは「海の珍客 青ヶ島噴火の軽石沿岸漂着」。潮流と絡めて東京都・青ヶ島の南で起きた海底火山爆発と軽石漂着を分析した。記事の結びはこうだ。「潮流を研究することは水産業においても利益の多いことである」
▼今回の軽石は、利益どころか漁業に大打撃となった。観光業へのダメージも心配だ。海の漂着物とも県民は闘わなければならないとは。地域住民は地道に軽石を取り除いている。これも沖縄の宿命なのだろうか。