<金口木舌>捨てられない古いマスク


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄市立郷土博物館の新収蔵品展で意外な物が展示されていると聞き、足を運んだ。新型コロナウイルス対策で政府が全戸配布した布製マスクである。「アベノマスク」と言った方が「ああ、あれか」と分かってもらえよう

▼収蔵理由について「将来的にコロナウイルス感染症のころの沖縄の世相を振り返る展示に使うためです」と説明板にある。一点物の民芸品とは異なり、マスクのような大量生産品は大事にされず消えてしまうという学芸員の話にうなずいた
▼当方の手元にも3枚の古い不繊布マスクがある。保存しているというより、捨てられない。白状するが昨年春、このマスクを中性洗剤で洗い、アルコールで消毒して幾日も使っていた
▼心もとない応急措置であったが、効果はあったかどうか。家族が使うマスクを求め、街中を回った不安な日々が忘れられない。コロナ禍の中で私たちの暮らしのもろさを思い知った
▼不気味な静けさと言ったら怒られるだろうか。県内の新規感染者数が1日数人にまで激減した。デルタ型ウイルスの弱毒化など諸説ある。理由が分からないということは、収束したとは言えないということでもあろう
▼布製マスクを見て思い出すのは政府の不手際と国民の混乱ぶりである。3枚の不繊布マスクを見て、頼りなかった自分を省みる。あの日々を覚えておこう。古いマスクは捨てない。