<金口木舌>戦争と向き合う


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 一体一体、遺体の顔に明かりをともし、やっと見つけた息子の顔に、年老いた母がそっと手をかざす。ドイツの美術家ケーテ・コルヴィッツが1907年に創作した「農民戦争第6葉 戦場」。戦争で息子を失った母の姿を描く

▼貧しさや戦争に向き合った彼女は、ナチス時代には「退廃芸術家」の烙印(らくいん)を押された。作品「戦場」は過酷な労働に蜂起した農民らが鎮圧され、死屍(しし)累々の中から息子を捜し当てた母の一瞬の喜びと、同時に込み上げる絶望を描く
▼佐喜眞美術館(宜野湾市)で、コルヴィッツらの作品を展示する「戦争と人間展」が開催されている。来年1月31日まで版画家の浜田知明さん、上野誠さんらの作品群と共に戦争の実相を伝える
▼浜田さんの連作「初年兵哀歌」は、初年兵が便所で首をつって絶命する姿や、喉元に銃口を当てる姿を描く。上官らの暴力に支配された軍隊で、初年兵には感情を解き放てる空間が便所だった
▼全裸女性の遺体の背景で行軍する初年兵を描き、人間性を失った初年兵が芋虫になる姿を描いた。浜田さんは、人間性まで奪う軍隊を恐れ「何時自分の咽喉に銃口をあてがうかを考えて生きていた」と作品集に記している
▼戦争は、人を慈しむ心や人間性をも奪う。そうした記憶は県内でも随所にとどめる。向き合い続けなければならない戦争の実相が胸に迫る。