<金口木舌>人工知能の診断


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 その昔、天然痘は悪魔の病だった。致死率3割で、1960年代まで毎年400万人の死者を出した。予防法のきっかけは「牛痘(牛の天然痘)に感染した乳搾りの女性は天然痘にかからない」という言い伝えだった

▼この話を基に1796年、英国の医師ジェンナーが牛痘の膿を使い、人間に無害なワクチンを開発し、死者を激減させた。この種痘は世界中に広がり、1977年、ついに天然痘は地球上から根絶された。人類が初めて制圧した感染症だった
▼これも医学史に残る出来事になるのだろうか。人工知能(AI)ががんの治療法を医師に助言したというニュースだ(5日付37面)。膨大な医学論文を学習したAIが、診断の難しい白血病を約10分で見抜き、抗がん剤を変えるよう提案したところ、患者は数カ月で回復した
▼AIが人の命を救った国内初の事例だ。桁違いのデータを瞬時に解析できる特性を生かし、今後も人知の及ばない分野で威力を発揮することが期待できる
▼一方で戸惑いもある。補助的役割にとどまる分にはいいが、独走して越権することはないか。誤診の責任は誰が取るのか。課題は多い
▼機械の恩恵は受けつつも、最後は人間に委ねたい。最近は患者よりもパソコン画面ばかり見る医師もいるから心配だ。AI時代でも、医療の原点はジェンナーのように患者に傾聴することだと確認したい。