<金口木舌>小さな命が立ち向かっている


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 心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を果たしている。生きるには欠くことのできない中心臓器だ。心臓筋肉の細胞が動かなくなり、心臓が衰えていく病気がある

▼20歳から40歳代に発症が多いとされる拡張型心筋症。うるま市出身の父森川孝樹さん(30)、母佳菜子さん(24)のもとに昨年1月生まれた陽茉莉(ひまり)ちゃんが生後約2カ月で、この病気と診断された
▼以来、人工呼吸器で息をつなぎ、鼻から管を通して栄養を取る。細い血管で点滴が漏れ、入れ替えに3時間を要する時もある。その度に言葉にできない激痛に耐える。生まれて間もない命にはあまりに重い病気である
▼いちずな生命力が「何度も何度もヤマ場を越えて」も苦痛は襲う。痛みの連続ばかりの陽茉莉ちゃんの姿に両親も勇気を奮い立たせた。生きるには、もはや心臓移植以外に道がない。県内でも募金活動が始まった。生きるためには2億9500万円が必要だ
▼H・S・クシュナーは著書「なぜ私だけが苦しむのか」で「すべての人は悲しみの兄弟」と記す。「苦悩や悲痛は世界のすべての人に平等に配分されているわけではないけれど、極めて広範囲にわたって配分されている」
▼誰もが悲しみの兄弟ならば、その痛みを自らのものと少しでも思いを重ね、両親の勇気を共有したい。重い病に立ち向かっている小さな命が助けを求めている。