<金口木舌>「てっぺん」の声を受け継ぐ


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 小さな体から絞り出す大きな声が耳朶(じだ)に残る。渾身(こんしん)の力で反戦を訴え、憲法9条の意義を説き、戦争の過ちを学ばぬ政治を批判した。21日亡くなったむのたけじさんは最後まで反骨のジャーナリストを貫いた

▼新聞の戦争責任にこだわったのは自身の苦い経験を踏まえてのことだ。今年5月、東京であった護憲集会でも「真実を国民に伝えて道を正すべき人間が何もできなかった」と率直にわびた。贖罪(しょくざい)意識が戦後の記者活動の原点にあった
▼朝日新聞を去り、故郷の秋田で1948年に創刊した「週刊たいまつ」を足場に論陣を張った。戦争の惨禍を忘れるような風潮を許さなかった。後年、本紙の沖縄戦報道に注目したのも、それ故だった
▼60年安保闘争の翌年、米軍基地が日本の成長をむしばみ、平和理想を打ち砕くと論じた。ひとたび戦争になれば米軍は地上にあるヒトとモノを壊すとも予測し、撤退を主張した。反骨記者の慧眼(けいがん)であった
▼今の沖縄に目を転じる。米軍基地から派生する破壊行為がはびこる。日本政府は止めるすべを知らない。普天間問題でも発言し「見物席から見ている傍観者」を決め込む国民の反省を促した
▼持論だった「死ぬ時が人間てっぺん」の言葉通り、自らの経験を交え、情熱を込めて平和を説きながら「てっぺん」へ昇っていった。むのさんが残した声を受け継ぐことが私たちの宿題だ。