<金口木舌>沈む島の訴え


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 リオデジャネイロ五輪で競技以外で注目を集めた選手がいた。重量挙げのキリバス代表カトアタウ選手だ。試技の後、コミカルなダンスをし、ネット上で話題を呼んだ

▼キリバスは33の環礁から成る太平洋の小国。人口は約10万。国土が海抜平均2メートル未満で、海面上昇により水没の危機にある。彼は「地球温暖化の影響を受ける母国を知ってほしい」と踊りで世界中に訴えた
▼異変は既に起きている。海水の浸入で井戸が使えない。タロイモ畑も失われた。複数の集落が移動を迫られた。墓地も水浸しだ。政府は高い堤防を建設したほか、最終的な海外移住も視野に、別の島国フィジーに土地を購入した
▼日本も人ごとではない。今年の台風は発生場所や進路が例年とは違う。沖縄のサンゴも白化が進む。米研究機関の推測では、温暖化が今のままだと海面が8・9メートル上昇し、6億人超が住む土地が水没する。日本は3400万人が家を失う
▼先日、米国と中国がやっと「パリ協定」を批准した。産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるという国際的対策だ。一歩前進だが、今すぐ二酸化炭素排出量をゼロにしても厳しいとの試算もある
▼キリバスの大統領は訴える。「ホッキョクグマ絶滅を心配する人が多いが、キリバスに住む人間がいなくなる現実を忘れないでほしい」。遠い国の話ではない。私たちの近い未来かもしれない。