<金口木舌>優しいユーモア


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 「あいやー、おじいは亡くなったおばあに、耳も持たせたのかねえ」-。数年前、取材で同行したある民生委員が、訪問先の1人暮らしの男性に発した言葉に、思わず笑った

▼男性は高齢で耳が遠く、会話がスムーズに進まない。でも先立った奥さんに耳を持たせてしまったのなら、多少話が伝わりづらくてもしょうがない。少し困った雰囲気を一瞬で和らげるジョークに感心した
▼宮里綾羽さんのエッセー「本日の栄町市場と、旅する小書店」には、市場の先輩方の至言があふれる。昨日まで元気に歩いていた人が杖をついていると「あい! 足が3本になっているさ!」と話し掛ける
▼老眼鏡を掛けるようになったら「目が四つになった」。薬が増えた人に「デザート増えたんだねー」。体の不調や老化を、笑いと共感で包み込む。宮里さんは「この優しさと洒落(しゃれ)た言葉遊び、わたしももっと学びたい」とつづる
▼一方、ネット上に「#東北でよかった」と東北の魅力を表現した画像や短文が、次々と投稿されたのは今年4月。被災者を傷付けた復興相の失言を逆手に取った対応に、多くの人が賛同した
▼今年も、理不尽さに憤る出来事の多い1年だった。ユーモアやウイットに富んだ発想は、苦しさを笑い飛ばす力になる。フェイクも暴言も一瞬で拡散される今、優しいユーモアがじんわりと心に染みる。