<金口木舌>心の砦


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「隠し砦(とりで)の三悪人」は黒澤明監督の作品の中でもひときわ娯楽性が強い名作だ。モノクロ画面の中で暴れ回る三船敏郎さんのギラギラした存在感が忘れ難い

▼封切りは正月を前にした1958年12月28日。沖縄では「旧正月映画」の触れ込みで59年2月6日に封切られた。黒澤映画が光を放った時代だった。その後も三船さんを主役に「椿三十郎」などの作品を撮っている
▼「砦」という文字は石や岩で作った柵や建物を意味し、敵を防ぐために本城の外に設けた小さな城を指す。砦の守りが本城の命運を決する。映画の舞台にはふさわしい
▼こちらは「砦」を軽んじた。基地反対運動をテロリスト呼ばわりした東京MXの「ニュース女子」が放送されたのは昨年1月2日。放送倫理・番組向上機構(BPO)は「重大な放送倫理違反」と断じた。キーワードは「砦は崩れた」
▼BPOは持ち込み番組である「ニュース女子」に対する番組考査の不備を指摘した。考査とは「放送の自主・自立を守る砦」であり、多メディア社会における「放送の矜持(きょうじ)を守る砦」である。それが「崩れた」というのだ。指摘に納得する
▼われわれの砦はどうか。米軍機の部品落下を「自作自演」と決めつける「沖縄ヘイト」が飛び交う。新たな年も心ない中傷が沖縄を襲うかもしれぬ。それに負けぬ心の砦を築こう。新年の誓いとしたい。