<金口木舌>政治家の顔


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 一コマの政治漫画は堅苦しい新聞紙面にあって、清涼剤のようなものだろう。やり玉に挙がるのは時の首相や野党党首が定番。茶化したり突いたりして世相を風刺し、読者の笑いを誘う

▼毎週日曜付本紙の「ウチナー漫評」も県政や国政をまな板に上げる。常連の顔ぶれといえば県知事や首相、官房長官の面々だ。読者には楽しんでもらえるが、登場する当人はいささか迷惑かもしれない
▼復帰前に活躍した沖縄の政治家は、漫画で描いても映えるような独特な顔をしている。思い浮かぶのは瀬長亀次郎さん。説明は要らないだろう。若い世代でも、あの顔は知っている。漫画向きでもある
▼立法院議員や衆院議員を務めた安里積千代さんも米統治下の激動を刻んだような精悍(せいかん)な顔をしている。1950年代の本紙の正月号に安里さんや瀬長さんの漫画が出てくる。時代が生んだ顔と言ってよい
▼元裁判官の次女、大城光代さんと長女の宮良百恵さんが安里さんの三十三回忌に合わせ「偲草」と題した冊子を編んだ。この本に登場する安里さんは娘を思う父親の顔である。司法試験に挑む大城さんを気遣う手紙に胸が熱くなる
▼くしくも、沖縄の戦後政治のリーダーの一人だった安里さんの命日が県知事選の投開票日と重なった。戦後史に名をとどめるうちなー政治家の顔を思い出しながら、新たな沖縄の顔を選ぶ日としたい。