<金口木舌>翁長さんを送って


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 出勤途中、那覇市内の路地で路肩を覆う木の葉や小枝を掃き清めている女性を見掛けた。台風去りし後の、いつもの光景である。2週連続の台風に多くの県民が振り回された

▼県出身芥川賞作家の東峰夫さんの小説「島でのさようなら」を思い出す。台風を食らった島人の慌てぶりをコミカルに描く。「はあもお!昨夜のからっ風は、あんしバンバン暴れたるやア!」というせりふに実感がこもる
▼東さんによると、台風に襲われた後の沖縄は「晩秋のいろ、たそがれの色」に覆われるという。暴風が運んだ潮風をもろにかぶった緑葉が赤茶けてしまうのを指している。それを「悲しい光景」と書いた東さんに共感する
▼今度の台風で、いつも見ていた街路樹や畑に植わっていたバショウが倒れた。それでも島は元気を取り戻すだろう。台風に幾度も襲われた島の歴史と風土、その中で育まれた島人の生きる知恵のたまものだ
▼翁長雄志さんを送る日にふさわしい天気と言えばよいだろうか。県民葬はさわやかな晴天に恵まれた。「はいさい」という明るい声とあの笑顔が浮かんでくる。それぞれの場で県民は前知事を悼み、沖縄の将来像を思い描いたであろう
▼知事選後、沖縄いじめの雨あられがネット上で広がった。辺野古新基地に絡んだ突風が吹くかもしれぬ。それをしのぐ知恵を島人の歩みに求めたい。きっとあるはずだ。