<金口木舌>魂の叫び


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 重い鐘の音から始まるその曲は、両親の愛を求める魂の叫びのように聞こえる。「お母さん、行かないで。お父さん、帰ってきて」。ビートルズのメンバーだったジョン・レノンの曲「マザー」だ

▼船の給仕人だった父親は家にいないことが多く、ジョンが生まれた時も不在だった。父親はジョンが5歳のころ、どちらと暮らすか迫ったがジョンは母親を選んだ。ただ、母親ともずっと暮らせたわけではない

▼「お母さん、僕はあなたのものだったけど、あなたは僕のものではなかった」。幼い頃の厳しい境遇を歌ったこの曲からは、ジョンの寂しさやつらさが伝わり胸を打たれる

▼ジョンは「愛が世界を平和にする」との考えで数多くの名曲を残した。「イマジン」が有名だ。国はなく、殺すことも死ぬ理由もない。ただ平和に生きること、世界は一つになると想像してみようと歌う

▼平和を求める立場から辺野古の新基地建設に反対するのが玉城デニー知事だ。米海兵隊員の父親は生まれる前に沖縄を去った。父親がいなかった境遇もジョンと共通する。選挙戦や訪米時、出自に触れ、民主主義の大切さを強く訴えた

▼12月8日はジョンの命日だ。政府が辺野古の埋め立てを強行し、知事と県民は厳しい局面に立たされている。「イマジン」でジョンが、平和を夢想するのは僕だけではないと歌ったように沖縄も決して一人ではない