<金口木舌>虚偽表示の「平和主義」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 しゃれたレストランのメニューに「プロバンス風」とか「森の恵みを添えて」などとあると、普通のサラダでもおいしそうに感じてしまう。人の味覚は舌だけではないようだ

 ▼全国で食材の虚偽表示が発覚している。冷凍魚を鮮魚、牛脂注入肉をステーキと偽るのは、まさに羊頭狗肉だ。高級店の料理にマジックワード(魔法の言葉)をまぶされると人は弱い
 ▼永田町でも最近、一国のリーダーが新メニューを出した。その名も「積極的平和主義」。美しい言葉で味付けされているが、コース料理の品々は「集団的自衛権の行使」「秘密保護法」「武器輸出三原則見直し」「国家安全保障会議」「国防軍」。きな臭さが漂う
 ▼平和学者ヨハン・ガルトゥング氏は、戦争のない状態を「消極的平和」、差別や偏見、貧困など構造的暴力のない状態を「積極的平和」と定義づけた。首相の「積極的平和主義」は軍事力強化を前面に打ち出しており、積極的平和とは相いれない
 ▼時の権力者は往々にして「平和のため-」を口実に戦争を起こす。ブッシュ前米大統領は「この危険な時を克服し、平和を実現する」としてイラク戦争を始めた。日本も「アジア解放」「大東亜共栄圏」の御旗を掲げ、アジアを侵略した
 ▼この国には為政者の甘い言葉で辛酸をなめさせられた苦い歴史がある。国家によって国民の命がもてあそばれるのは二度とごめんだ。