<金口木舌>無理な誓いはするな


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 ギリシャ神話の青年神ヘルメスは多才な神だ。翼の生えた靴を履いて風よりも速く走り、手には使者の証しであるつえを持つ。商業の神、旅人の神、そして情報の神でもある

▼ある日、牛に変えられた女を助け出すよう命じられる。女は百目の怪物に見張られていた。隙のない怪物にヘルメスは一計を案じる。あし笛の美しい音色で怪物を眠らせることに成功した
▼さて、世界が百もの目で見詰めるギリシャの金融危機である。国際通貨基金(IMF)への債務返済が実行されず、事実上の債務不履行(デフォルト)に陥った。今後、公務員の給与や年金なども支払えなくなり、国民生活が大打撃を受ける可能性がある
▼株価急落の連鎖は地球を一周した。今度ばかりは、あし笛の音色で収まる話ではなかろう。知恵と情報と、世界を見渡す多才な力が求められている
▼5日には欧州連合(EU)が求める緊縮策を受け入れるか否かを問う国民投票がある。年金を減らし、増税を受け入れる改革を選ぶのか。もし緊縮策反対が上回れば、EU離脱も含め先行きはますます見えない
▼神々を祭るアポロン神殿の入り口には二つの格言が刻まれている。「汝自身を知れ」と「度を越してはならぬ」。そして第3の格言は「無理な誓いはするな」。ギリシャとEU双方が地道な努力で事態を打開するように、神々が刻んだようにも思える。