<社説>止まらぬ首相のやじ 民主主義が壊れかねない


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 安倍晋三首相が国会で、閣僚席から再三やじを飛ばしている。本来、議員や国民の模範となるべき立場にいるはずだが、首相の振る舞いは過去にも問題になってきた。憂うべき事態である。

 安倍首相は6日の衆院予算委員会で、質問する無所属の今井雅人氏に対し、自席から指をさしながらやじを飛ばした。議場は騒然となった。
 今井氏は加計学園問題について質問し、萩生田光一文部科学相の関与をうかがわせる文書を示し「文科省の方が書いた文書か」と追及した。今井氏によると、首相は「あなたが(文書を)作ったんじゃないの」とやじを飛ばした。
 今井氏は発言の取り消しや謝罪を求めた。首相は「座席から言葉を発したことは申し訳なかった」と謝罪したが、発言の取り消しには応じなかった。一方で発言に関して「誰が書いたか分からないということを申し上げた」と説明している。苦しい釈明だ。
 加計学園問題では2017年、官房副長官だった萩生田氏が「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」と発言したとされる文書が文科省内で確認されている。首相自身の関与が取り沙汰された問題である。やじは極めて不誠実で、不遜な態度だと言わざるを得ない。
 首相のやじには野党が強く反発したほか、与党からも苦言が出た。当然のことだ。
 世耕弘成自民党参院幹事長は首相のやじについて「謙虚で丁寧な姿勢でしっかりと答弁してほしい。常にカメラの向こうには国民の目があると意識することが重要だ」と指摘した。衆院予算委の棚橋泰文委員長は委員会後、「閣僚席からの不規則発言は慎んでほしい」と求めた。
 首相側近からもいさめられたことは、恥ずべきことである。だがあろうことか、首相は8日にも参院予算委員会で質問する立憲民主党の杉尾秀哉氏に「共産党」とやじを飛ばした。またも相手を指さしながらだ。品格、見識がみじんも感じられない。
 首相は過去にも国会で何度も感情をむき出しにしたり、やじや不規則発言をしたりして審議を紛糾させた。発言撤回や謝罪に追い込まれたこともある。にもかかわらずその姿勢は改まらない。常習性があると言ってもいい。
 今国会では就任直後に辞任した2閣僚を巡り議論が集中しているが、首相は「行政を前に進めることが国民への責任だ」「本人たちも今後説明すると述べている」と逃げの答弁に終始している。2人に対する任命責任はおろか、説明責任も果たしていない。
 一方では自らに批判的な立場の議員を嘲笑(ちょうしょう)し、不都合な意見には耳を傾けようとしない。このような状況を放置しておけば健全な民主主義は壊れかねない。国会は強い危機感を持ち、自由で闊達(かったつ)な議論を妨害しかねない、やじや不規則発言には厳正に対処することを申し合わせるべきだ。