日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)の失効が回避された。ただし、両国の関係改善が図られたわけではなく、先送りされたにすぎない。日韓両首脳は冷静に問題解決の糸口を見つけるべきだ。
GSOMIAは軍事上の機密情報を提供し合う際に第三国への漏えいを防ぐための協定で、3年前に安倍政権と朴槿恵(パククネ)前政権の間で締結した。日米韓の軍事連携の象徴だ。
しかし昨秋の韓国人徴用工訴訟判決で日韓関係は急速に悪化した。朝鮮半島出身者が日本の植民地時代に労働を強いられ、非人道的な扱いを受けたとして賠償を求めた裁判で韓国最高裁は日本企業へ賠償命令を出した。一方の日本政府は1965年の日韓請求権協定に基づいて解決済みだと訴え、両者の主張は平行線をたどる。
対立は輸出規制強化措置の応酬に発展し、韓国が日本の半導体部品の輸出規制強化は不当として世界貿易機関(WTO)に提訴するなど、65年の国交正常化以来「最悪」と言われる関係になっている。
影響は両国の経済や市民社会にも及ぶ。県内でも9月の韓国からの観光客は前年同月と比べ約8割も減った8400人と大幅に落ち込み、航空路線も週73便から32便まで減少した。韓国プロ野球球団が県内でのキャンプを相次いで中止し、子どもたちが楽しみにしていたであろう日韓のスポーツ大会もなくなり、民間交流の場まですぼまっている。
関係悪化の発端となった徴用工の問題は日本の韓国併合、植民地支配への反省なくしては解決できない。身近な例えで言えば、犯罪の加害者が被害者に対して、法の処罰を受けたから問題は終わったと言いつのるのは人として許されないだろう。日本は同じことをしていないか。
韓国も協定の取り決めに従うべきだ。日韓請求権協定では協定の解釈などに関する紛争は外交で解決し、解決しない場合は仲裁委員会の決定に服するとしている。
GSOMIAの失効は土壇場で避けられたが、安倍晋三首相、文在寅大統領は互いに「原因は相手国にある」と主張している。両国は今後貿易管理に関する協議を始めるが、韓国政府が輸出規制見直しを求めているのに対し、日本政府は現状の変更はないとの姿勢だ。かたくなな態度を崩さないままでは解決はおぼつかない。
今回の失効回避は米国の働き掛けが大きかったといわれる。米国は国防部門の高官を相次いで韓国に送った。米軍駐留経費の5倍超の増額要求をしたのは露骨な圧力だ。しかし日韓関係を改善するのは米国の圧力ではなくて、両国の対話と歩み寄りである。
日本側は過去の歴史を真摯(しんし)に受け止めて反省を示し、韓国側は徴用工問題の収拾に向けて日韓で合意できる案を検討してほしい。