政府の隠蔽(いんぺい)体質が色濃く浮かび上がった。
学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざん問題で、2018年3月に自殺した財務省近畿財務局の赤木俊夫さん=当時(54)=の手記や遺書が公表された。
手記には「決裁文書の差し替えは事実で、元はすべて佐川氏の指示」と記され、当時財務省理財局長だった佐川宣寿元国税庁長官が主導した不正の経緯がつづられている。
森友学園への国有地払い下げ問題は、評価額から約8億2千万円も値引きした格安な価格で国有地が売却されていたことに端を発する。学園の名誉校長に一時就任していた安倍昭恵首相夫人の関与などが国会で追及された。
安倍晋三首相が「私や妻が関係していたなら首相も国会議員も辞める」と答弁したことをきっかけに、財務省の隠蔽工作は始まった。理財局は昭恵夫人らの名前が記載された書類の存否を調べ、近畿財務局に伝えて交渉記録を廃棄していた。
改ざんを強制された赤木さんは「学園への厚遇と受け取られる箇所は修正するよう指示があったと聞いた」「抵抗したとはいえ、関わった者として責任をどうとるか」と良心の呵責(かしゃく)に苦しんでいた。
改ざんに直接関わった職員の告発だけに、公になった証言内容が持つ意味は重い。
手記を公表した赤木さんの妻は、真相解明を求めて提訴に踏み切った。これに対し、麻生太郎財務相は「新たな事実が判明したことはない」として再調査を否定している。
18年6月の財務省の調査報告書は、佐川氏の指示を明確には認めておらず、改ざんに抵抗した職員がいたことにも触れていない。手記の記述と不一致がある以上、再調査は不可欠だ。
手記を読んだ安倍首相は「痛ましい出来事だ」と述べる一方、再調査は否定した。「胸が痛む」という言葉が本当なら、遺族の意をくんで速やかに調査を指示すべきだ。
文書の改ざんを指示した佐川氏は「資料を破棄し、面会記録は残っていない」などと国有地売却の経緯をうやむやにする国会答弁を繰り返した。その佐川氏を、麻生氏は国税庁長官に昇進させている。首相に責任が及ぶのを防いだことを評価した論功行賞ではなかったか。
大阪地検特捜部も籠池泰典前理事長夫妻だけを逮捕し、虚偽公文書作成容疑などで告発されていた佐川氏らを二度にわたり不起訴とした。検察の「国策捜査」は一層拭い難い印象となっている。
森友問題の闇は深い。官邸や政治家の意向に官僚がすり寄り、法律解釈や事実をねじ曲げる。国民の財産である公文書の改ざんさえいとわない統治機構の腐敗がある。
赤木さんを死に追い込んだのは誰なのか。組織的な不正の実態を徹底して究明しなければならない。