安倍晋三首相は、新型コロナウイルス特措法に基づいて7都府県に発令していた緊急事態宣言を、沖縄を含めた全都道府県に拡大した。
沖縄でも感染者が100人を超えた。死者も出る中で、対策の強化は必要だ。だが、緊急事態宣言の全国への適用は、16日夕に諮問委員会に提案され、その日のうちに効力を発生させた。私権の制限や経済活動の縮小を伴う強力な措置でありながら、あまりにも唐突すぎる決定だ。
地方でも感染者が拡大しているとはいえ、発生状況は地域ごとに濃淡がある。全国一律に緊急事態宣言の対象とする理由を科学的な根拠とともに説明すべきだ。
もちろん、大型連休中に感染拡大地域から地方へと人が移動し、地域の医療現場を崩壊させるようなことがあってはならない。その対策の効果を出すためにも、強力な権限を付与される都道府県が十分な備えと計画を用意し、住民や事業者に周知することが欠かせないはずだ。
営業自粛を要請する施設に対しては、休業中の損失の補填(ほてん)がセットでなければ事業者は安心して要請に協力することができない。全都道府県に緊急事態宣言を適用する以上は、知事の要請を受けて休業した事業者には国の責任で補償をすべきだ。
安倍晋三首相は全国の小中高校への休校要請や中国、韓国からの入国制限強化などでも場当たり的な対応で混乱を引き起こしてきた。今回の緊急事態宣言の拡大も都道府県知事との事前の調整がなく、完全な独断だ。
感染症に対する国民の恐怖心に便乗し、発動基準が曖昧なままに強権を行使してしまうという、コロナ特措法が改正される際に懸念した通りの展開になっている。
政権浮揚ありきの朝令暮改も問題だ。首相は全国民を対象に所得制限を設けず1人当たり10万円を支給することを表明したが、当初は一律給付を求める野党の主張を突っぱね、減収世帯限定の30万円給付を閣議決定した。
方針を転換したのは先の判断が誤りだったことを意味する。なぜ最初から一律にしなかったのか。首相は混乱を招いた責任は自身にあるとわびたものの、いまひとつ釈然としない。一律10万円給付に転換する理由付けのためコロナ特措法を利用し、緊急事態宣言の全国への拡大を急きょ持ち出したと疑いたくなる。
首相に求められるのは、地域の意向を尊重し、医療崩壊の回避を全力で支援することだ。専断とリーダシップを履き違えてはいけない。
緊急事態宣言が発令されたことで、知事は不要不急の外出自粛要請や、映画館、大型店舗などの使用停止を要請・指示できるようになった。医療施設を臨時に開設する土地の強制使用も可能だ。
玉城デニー知事はよほど合理的な事情がない限り強権の行使は控えるべきだ。