<社説>マスク騒動 優先順位をはき違えるな


社会
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 新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、政府が取り組む布マスクの全世帯配布を巡り混乱が続いている。危機に際し、国民の不安やニーズに明確なメッセージと的確な判断で速やかに応えるリーダーシップが問われている。

 安倍晋三首相は4月1日、全国の約5千万世帯に対して布マスクを2枚ずつ配ると表明した。全戸配布は突如打ち出されたもので、与党幹部からも驚きの声が上がった。
 国内のマスクは1月下旬から不足状態にある。中国からの輸入量が激減したためだ。この間、首相や菅義偉官房長官は何度も供給量の増強に言及してきたが、需要の急増に追い付かず、市中の品薄は現在も解消されていない。
 全戸配布は首相やその周辺の発案だという。首相は洗って再利用できる布マスクの利点を挙げ「拡大する需要に極めて有効だ」と胸を張ったが、個人向け給付金の金額も決まっていない段階での発表は「税金の無駄遣い」と多くの人の不興を買った。
 緊急経済対策の一環として配布事業が強調されたことにも違和感があった。「アベノミクス」ならぬ「アベノマスク」と国内外でやゆされるのも仕方がない。首相の感覚は、コロナ禍にあえぐ国民とずれていたと言うしかない。自宅でくつろぐ動画を投稿して外出自粛を訴えたことへの批判とも重なる。
 布製マスクは不織布マスクより繊維の隙間が大きく、ウイルス予防効果は限定的だという。政府の配布マスクはサイズが小さい点でも評判は芳しくない。首相以外の閣僚が着用しているのは、ほとんど見たことがない。
 もちろん布製でも一部ウイルスは捕集され、せきやくしゃみによる飛沫(ひまつ)感染の防止にも一定程度役立つとされる。配布を全て否定はしないが、実施が遅すぎた感も否めない。しかもまだ多くの国民の手元に届いてはいない。
 全戸配布に先立ち妊婦用などに配られた布マスクでは汚れや異物混入が相次いだ。配布済みの全世帯向けマスクでも不良品があり、厚生労働省などが未配布分マスクの回収、検品に追い込まれた。
 政府の配布で不衛生品が大量に見つかるとは信じられないことだ。トップの思い付きから準備不足で始めたツケだと言わざるを得ない。
 全世帯への計1億3千万枚の配布には計466億円の予算が計上された。福祉施設や妊婦向けを含め、政府のマスク配布事業では、実績の乏しい企業や規模の小さい会社との随意契約が交わされている。政府には発注に至る詳細を説明する義務がある。
 政府はマスク配布に変更はないとしているが、予定の5月中に終わるかは微妙な情勢だ。医療従事者への支援や減収世帯・企業対策など、足元の課題は山積している。今は何を優先すべきか。費用対効果も含めて再考することも必要ではないか。