憲法53条に基づく臨時国会の召集要求に安倍内閣が3カ月以上応じなかったのは違憲だとして県選出の国会議員と元議員(提訴時は現職)の計4人が1人1万円の損害賠償を国に求めた訴訟で、那覇地裁(山口和宏裁判長)が10日、請求を棄却した。
内閣に召集すべき義務があることは認めたものの、損害賠償請求には理由がないとし、憲法に違反するかどうかの判断を避けた。極めて遺憾と言わざるを得ない。
3カ月以上放置したのは合理的期間の範囲内と言えるのか。質疑もせず冒頭に解散したやり方は実質的に召集要求に応じた臨時会の召集と言えるのかどうか。少なくとも、これらの争点について、当否を判示してほしかった。
憲法53条は「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めている。
原告の4人を含む野党は2017年6月22日、森友学園や加計学園を巡る問題を追及するため「4分の1以上」の要件を満たして国会召集の要求書を衆参両院に提出した。
だが安倍内閣はすぐには応じなかった。国会が召集されたのは要求から98日たった9月28日だ。しかも質疑を経ずに冒頭で解散している。
召集の期限に定めがないとはいえ、長期にわたって要求を無視することは明らかに憲法の趣旨に反する。53条には、少数派の発言を保護し、多数派の横暴を防ぐ狙いがあるからだ。
憲法学の泰斗、故芦部信喜氏は著書「憲法」(岩波書店)で「政治的な理由で召集を不当に延期することは、制度の趣旨に反するであろう」と指摘している。
要求があったときは可能な限り速やかに応じるべきだ。履行を強制する規定がないからといって、だらだらと先延ばしすることは許されない。
そのような対応が横行し慣例化すれば、議員の質問権が奪われ、さまざまな問題について究明が難しくなる。国民の知る権利は著しく損なわれることになる。
三権分立は、立法、行政、司法の三権が相互にけん制し合うことで権力の絶対化を防ぐための仕組みだ。
憲法ではっきりと義務付けられていることを行政が守っていないのだから、少なくとも、その点を明確にし、一定の歯止めをかけるのは司法の役割ではないのか。
裁判官はいかなる国家機関からも指揮命令を受けることがない。良心に従い職権を行使する独立した存在だ。だからこそ特別の場合を除き、意思に反して免官や職務停止などができないように身分が保障されている。裁判官が及び腰になったのでは国民の権利は守られなくなる。
同様の訴訟は岡山、東京両地裁でも起こされている。憲法の形骸化を防ぐため、裁判所がしっかりとその役割を果たすよう強く求めたい。