米軍普天間飛行場の辺野古移設の実現性を疑問視する見方が米国にも広がっている。
2021年度国防権限法案を可決した米連邦議会下院軍事委員会の即応力小委員会は、名護市辺野古の新基地建設予定地に存在する軟弱地盤や活断層に対する懸念を初めて法案に記述した。海底の詳細な状況や環境全体への影響に関する報告書を提出するよう、国防長官に指示する文言も盛り込んでいる。
日本政府は辺野古で進めている工事を停止し、事業の合理性を冷静に検証することだ。税金と時間をこれ以上無駄に費やしてはいけない。
米下院小委員会の記述は、昨年10月に玉城デニー知事が訪米して連邦議員らと面談し、辺野古移設の問題点を説明してきた成果だといっていい。県民の負託を受けた知事が、基地問題の解決を米国で直接訴える意義は大きい。
知事訪米だけではない。辺野古移設の見直しを掲げる野党系国会議員や市民団体など各方面のロビー活動が総体となり、米国の政策決定を動かそうとしている。
ただし、連邦議会として最終的な法案に落とし込むかどうかは、軍事委員会全体のとりまとめや上院との協議を経て決まっていく。日本政府は記述を削除させる方向で米議会への働き掛けを強めるだろう。審議の行方を注視していかなければならない。
それでも、「日本国内の問題」として距離を置いてきた米国で、辺野古新基地建設への懸念を巡る議論が持ち上がるのは大きな状況の変化だ。それだけ軟弱地盤の存在が移設の前提を根底から揺るがしているということだ。
大浦湾に広がる軟弱地盤の改良工事を行う必要が出てきたことで、新基地建設の総工費は日本政府の試算でも9300億円に上る。当初計画の約2・7倍だ。完成までの期間も約12年に延長した。
完成したとしても海域に活断層が走っている可能性があり、岬に突き出した滑走路は津波リスクにさらされる。そもそも、海底90メートルに達する軟弱地盤は工事の実績がない。これだけの予算や時間をかけても完成の保証はない。
膨らみ続ける費用や前例のない難工事など、基地建設場所の選択肢として辺野古は不向きだという条件が積み上がっている。「辺野古が唯一」という日本政府の説明はすでに破綻している。
政府が配備計画撤回を決めた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」について、河野太郎防衛相は「コストと期間を考えると合理的な判断とは言えない」と説明した。その論拠に従えば、同様に費用と時間が膨大に膨らむ辺野古の基地建設も白紙撤回するのが正当だ。
これまでの出費を惜しむことで、費用や時間をさらに犠牲にすることを「サンクスコスト(埋没費用)の呪縛」と呼ぶ。破綻した計画にこれ以上拘泥すべきではない。