<社説>感染米兵沖縄移送案 秘密裏の受け入れ許すな


社会
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 航行中に新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した米海軍の原子力空母セオドア・ルーズベルトの約3千人の乗組員を、沖縄の米軍基地に移送する計画を米軍が検討していたことが分かった。最終的に乗組員はグアムで下船することになったが、撤回されたからといって済まされる話ではない。

 感染症の陽性者を含んだ大規模の集団を他国の領土に運び込むなど、到底受け入れられるはずがない選択肢だと発想した段階で分かるはずだ。沖縄を自国の領土のように自由に使用できるという米軍の認識が見て取れる。それを助長しているのが米軍の姿勢を追認してきた日本政府の弱腰にほかならない。
 沖縄への乗組員移送を計画したことについて、日本政府は米軍の意図を正さなければならない。米軍経由で感染症が持ち込まれることがないよう強く抗議する必要がある。
 米海軍の調査報告書によると、ルーズベルトはベトナムからグアムに向けて西太平洋を航行中の3月24日に、乗組員3人の新型コロナ感染が判明した。第7艦隊司令部が乗組員の隔離場所を検討し、沖縄にある普天間飛行場や海兵隊基地に計3千室を確保できると試算。空母から沖縄に空路で乗組員を運ぶ計画を直前まで進めていたという。
 ルーズベルトから沖縄への乗組員移送が実施されていれば、日本政府の了承なしに受け入れが進められていた可能性があった。
 日米地位協定9条は米軍関係者に出入国に関する特権を認めており、日本の検疫を免除された米軍の部隊は、米軍機で直接日本各地の基地に入っている。
 どんなに県や国がウイルスが入り込まないよう水際阻止を図っても、米軍基地の存在が感染症対策の穴になってしまう。米軍は当初、県内での感染者数さえ公表しないなど、入国から基地内の感染状況、医療体制など全てがブラックボックスとなっている。
 ルーズベルトでの集団感染は、全乗組員約4800人の約4分の1に当たる1248人が感染、1人が死亡した。
この中から3千人もの米兵が沖縄に上陸していれば、基地の外まで感染を広げ、沖縄社会に深刻な事態をもたらしていた可能性が高い。米軍基地内での感染拡大が一つの要因となっている現在の県内での感染状況を見れば、それは容易に想定できる。
 海軍の報告書から、米軍内の感染者を受け入れる場所として沖縄を組み込んでいることが読み取れる。乗組員の移送を計画する際、日本政府や沖縄県との事前協議や検疫について検討している様子はない。治外法権的な振る舞いを許している。
 今のままでは、在沖米軍基地以外からの感染者の受け入れが秘密裏に行われてしまう恐れがある。沖縄移送案を二度と許さないために、毅然(きぜん)とした対応が必要だ。