<社説>トランプ氏が提訴 民主主義の根幹揺るがす


社会
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 米大統領選は投票日から3日たっても開票が続き、確定結果がでない異例の事態となっている。

 民主党のバイデン前副大統領が共和党地盤で猛追すると、トランプ大統領は激戦州の集計停止を求め提訴した。
 選挙の公正さを保障すべき大統領自身が、民主主義の根幹である選挙制度を揺るがしている。権利の乱用と言わざるを得ない。
 大統領選は3日開票が始まり、再選を目指すトランプ氏が重要州の南部フロリダ、中西部オハイオを制した。トランプ氏は4日未明、ホワイトハウスで演説し「はっきり言ってわれわれが勝った」と一方的に主張した。
 しかし、最終盤で郵便投票の開票が進むと、バイデン氏が急伸する。ラストベルト(さびた工業地帯)の激戦州、中西部ミシガンとウィスコンシンを奪還した。共和党地盤の南部ジョージア州で逆転し、西部アリゾナ、ネバダ両州で僅差ながら先行した。
 トランプ氏は「ひそかに大量の投票用紙が捨てられていた」「魔法のようにリードが消えた」などと不信感をあおるツイートを連発した。そして「大規模な不正が起きている」と根拠を示さず主張し、連邦最高裁で戦う考えを表明した。
 中西部ミシガン、東部ペンシルベニア、南部ジョージア各州で集計の停止、中西部ウィスコンシンでは再集計を求める法廷戦術に出た。ペンシルベニアでも新たな法的措置に踏み切った。
 ペンシルベニア州のウルフ知事(民主党)は「民主主義手続きを腐敗させるもの」だとし、集計を続けると表明した。確かにトランプ氏の発言は常識を逸脱している。
 民主主義国家は、公正な選挙を保障しなければならない。なぜなら選挙を通じて国民の代表者を選ぶのが民主主義だからだ。
 大統領選を巡る訴訟は過去にもあった。2000年の大統領選は、勝敗を決するフロリダ州の集計を巡って連邦最高裁で争われた。ただしこの訴訟は、州が集計を発表した票の再集計をするかどうかだった。トランプ氏が集計そのものの停止を求めている点と大きな違いがある。
 正当に投票された郵便投票を集計しなければ、公正な選挙プロセスの否定につながる。トランプ氏は、大統領として自らよって立つ基盤を掘り崩している。
 トランプ氏が集計停止を求めているペンシルベニア州の最大都市はフィラデルフィア。建国のゆかりの地だ。1776年に独立宣言、87年に合衆国憲法が制定された。建国以来、選挙によって平和的に政権移譲が行われてきた。その伝統を尊重しない大統領が、かつていただろうか。
 新型コロナ禍を乗り越えるには、分断ではなく協調が求められる。米国の民主主義は分断を乗り越えられるか正念場を迎えている。