<社説>安倍前首相不起訴 政治的責任は免れない


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 安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前夜祭として主催した夕食会への費用補填(ほてん)問題で、東京地検特捜部は政治資金規正法違反(不記載)、公職選挙法違反(寄付行為の禁止)などで告発された安倍氏を不起訴処分とした。

 安倍氏は刑事罰に問われなかったが、これで政治的責任を免れたわけではない。国会で虚偽答弁したことをはじめ、民主主義の根幹を揺るがした事実は消えない。「道義的責任」を感じているなら議員辞職するのが筋だ。
 費用補填問題で検察は2016~19年の政治資金報告書に4年分の収支3022万円を記載しなかったとして、安倍氏の公設第一秘書を24日に略式起訴した。秘書は25日に東京簡裁の略式命令を受け、罰金100万円を納付した。
 一連の疑惑に対する捜査はこれで形の上では終結したことになる。だが不起訴を受けた安倍氏の記者会見や国会での質疑応答で、疑問はさらに膨らんだ。
 補填した額は、検察の認定で16~19年で708万円に上る。補填費用の原資を問われた安倍氏は、私的な支出に充てるため手持ち資金として事務所に預けた自身の預金が使われたと説明している。
 公選法は公職にある者が選挙区内の有権者に対し、いかなる名義をもってしても寄付してはならないと規定する。補填は公選法違反ではないか。立件するには寄付を受ける側に利益を得た認識が必要というが、夕食会に参加したのは、ほぼ安倍氏の支持者であり、会費は都内の高級ホテルとしては破格の5千円だった。支持者を接待するという目的は明らかだ。
 同時に安倍氏の個人資金が有権者の飲食に充てられたのならば、秘書は雇い主である安倍氏に報告をせず、無断で流用したのか。そのことに安倍氏は気付かなかったのか。金額も含め国民の感覚からあまりにもかけ離れている。
 25日に開かれた衆参両院の議院運営委員会に出席した安倍氏は、繰り返し「秘書の虚偽報告」であったことを強調した。「説明責任を果たす」という言葉とはほど遠い態度だった。
 しかし、これまでの国会での質疑では、野党からホテルの明細書など真相解明に必要な資料を要求されていた。安倍氏が自ら明細書を取り寄せるなど行動を起こせば、秘書の報告のせいにできなかったはずだ。結果的に118回もの事実と異なる答弁をする必要はなかった。
 言論の府である国会で、最高権力者である首相が虚偽を述べたのではまともな議論が成り立つはずがない。安倍政権下では、森友学園問題でも事実と異なる政府答弁が139回あった。
 民主主義の基本である事実に基づいた議論を放棄したのが安倍前政権だといえる。その事実を重く受け止めるのなら、安倍氏は速やかに出処進退を明らかにすべきだ。