<社説>首相長男接待 疑惑を徹底的に解明せよ


社会
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 放送行政を所管する総務省の幹部が、放送事業会社に勤める菅義偉首相の長男から接待を受けていた問題で、同省の局長ら幹部2人が事実上更迭された。週刊誌が会食時の録音とされるやりとりを公表し、この局長と長男共に自らの声と認めた。

 これで幕引きとはならない。総務省幹部は、利害関係者と認める事業者からの接待を何度も受けた上、国会では虚偽答弁を繰り返した。接待は長男が勤務する「東北新社」の衛星放送の認定更新を認められた直前に集中し、接待の場で双方がBS事業に言及していたことが明らかになった。公正公平な行政がゆがめられたと疑わざるを得ない。
 しかも背景に「首相の長男」に対する官僚の忖度(そんたく)が働いたとも考えられる。放送行政にどう影響を与えたのか、疑惑を徹底的に解明しなければならない。
 長男が役員を務める「東北新社」の子会社は総務省から衛星基幹放送事業者の認定を受けている。総務省幹部は長男ら同社幹部と2016年以降、延べ12回会食し、タクシーチケットや贈答品も受け取っていた。首相は総務副大臣と総務相を務め、総務省は今も首相の「直轄地」と異名が付くほど影響力を持つ。長男は首相が総務相時代に秘書官を務めていた。首相自身も東北新社創業者から献金を受けている。
 こうした関係から官僚と長男の密接な関係が続いたばかりか、接待が公になって以降も、秋本芳徳総務省情報流通行政局長は国会で、衛星放送に関する話が出たかは「記憶にない。当時は(長男は)利害関係者に当たらないと認識していた」などと答弁していた。
 しかし、会食時の録音が出て、「記憶にない」としていた衛星放送に絡む話題について「今となっては発言があったのだろうと受け止めている」と一転して認めた。長男については「利害関係者に当たる」との認識も明らかにした。国家公務員倫理規程が禁じる「利害関係者からの接待」だったと考えられる。
 首相の身内を巡り官僚が忖度(そんたく)した事例と言えば森友問題を想起する。安倍晋三首相の妻、昭恵氏が名誉校長を務めていた森友学園に国有地が大幅に値引きされ売却された。国会では事実と異なる政府答弁が130回以上に及んだ。
 菅首相がいくら「長男とは別人格」と言い張ろうが、官僚は長男に首相の影を見て忖度を繰り返している。安倍政権下の14年に官房長官だった菅首相自らが内閣人事局を設置して省庁の幹部人事を一手に握り、官邸主導を進めたことの弊害にちがいない。安倍、菅と続く長期政権の弊害でもある。
 首相自身に責任があることはいうまでもないが、今のままでは自浄作用は望めないだろう。国会は国政調査権を発動し、長男、総務省幹部の証人喚問を含め、疑惑の真相究明を図るべきだ。