国民の懸念を解消できないまま、11日の参院本会議で改正国民投票法が成立した。
投票率の下限を定めず、一部に憲法違反の可能性を残す欠陥法だ。政党間の駆け引きによって成立にたどり着いたが、議論が尽くされたとはとうてい言える状況にない。
欠陥だらけの改正国民投票法は不要であり、憲法自体を論ずる以前の問題だ。指摘されている問題点に対して熟議を重ね、幅広い国民の合意形成を図るべきだ。
改正国民投票法の問題はCM・広告に規制がないことや、投票率の下限がないことなどが挙げられる。
CM・広告は現状のままなら、資金力にものを言わせて一方的な主張を大量にCMなどで流すことで、国民の投票行動を左右する恐れがある。この問題について改正法は「施行後3年をめどに必要な措置を講ずる」との付則が盛り込まれたが、付則を含む修正案を提起した立憲民主党が法制化を求めるのに対し、自民はあくまで検討対象としている。規制の可否は先送りされたにすぎない。
最低投票率の設定は多くの識者から指摘された。しかし改正法を審議する衆参両院の憲法審査会での議論に全く反映されなかった。
2018年の国会に提出された改正国民投票法案は約3年にわたり、実質的な審議が進んでいなかった。今国会で成立できたのは、支持層に実績をアピールするため廃案を避けたい与党などが、改憲論議を先送りしたい立民の修正案を丸のみしたからだ。
衆参両院のホームページで今国会でのそれぞれの憲法審査会の審議記録を見ると、衆院は3回の開催で合計約5時間半、参院は4回で合計約9時間しかない。
改憲に関わる重大な法案を衆参合わせて十数時間程度の論戦で片付けてよいものか。
多様な視点から検証すべく、参院憲法審査会は衆院で実施しなかった参考人質疑を行った。参考人の意見によって法の不備が露呈した。
与党推薦の上田健介近畿大教授(憲法)は、議員の質問に対して「(衆参とも)熟議になっていないのではないか」と発言している。
飯島滋明名古屋学院大教授(憲法)も投票所の時間短縮など「投票環境悪化の可能性」を指摘し、不在者投票で投票できない人が放置される恐れがあり「(改正法)は違憲の可能性もある」と指摘した。
熟議どころか、憲法違反すら疑われる法の成立を誰が望んだだろうか。「公益」の名の下に人権を制限し、私権制限を拡大する緊急事態条項の必要性を説く自民党改憲草案のように、改憲そのものに異論も多い中で不備ばかりの手続き法を定めても無意味だ。
最低投票率の設定、投票環境の改善など直すべきところは幾つもある。少なくとも付則にある3年をめどに改善できなければ、改憲論議に入るべきではない。