自衛隊や米軍基地、国境離島などの土地利用を規制する法案が、参院本会議で可決・成立する。
どのような施設が規制の対象となり、どのような行為が規制されるのか全てあいまいだ。「安全保障」を理由に、思想信条、集会、表現の自由や財産権を侵害し憲法に抵触する恐れがある。欠陥だらけの法律は認められない。
当初、法案がまとめられた背景に、外国資本による土地購入に対する懸念があった。しかし、日本が批准する「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)により、外国資本だけを対象とした規制は難しい。この時点で、法案を見送るべきだった。
しかし、政府は土地所有者の国籍を問わず「安全保障」を名目にすることにした。出来上がった法案は、外国人が土地を所有すること自体は規制せず、基地周辺で暮らす自国民を監視対象にする内容にすり替わってしまった。基地と隣り合わせの多くの沖縄県民が対象になる。
土地規制法は、自衛隊や米軍基地などの周囲約1キロや国境離島を「注視区域」に指定し利用状況を調査できる。施設への妨害に中止勧告、命令を出す。命令に応じなければ、懲役か罰金を科す。
「注視区域」のうち自衛隊司令部周辺や無人国境離島を「特別注視区域」に指定し一定面積以上の売買に事前届け出を義務付ける。
指定される対象として政府は有人国境離島148島(うち県内50島)、海上保安庁174施設(うち県内8施設)のリストを国会に提示した。しかし自衛隊施設のリスト提出を拒み、米軍施設も国会で明らかにしなかった。
対象施設を明らかにしないだけでなく、施設の「機能を阻害する行為」も国会で例示しなかった。閣議で決める基本方針に盛り込むという。国会のチェックが働かず政府に「白紙委任」したことを意味し立法府の責任放棄である。
沖縄の場合、名護市辺野古の新基地建設に反対する市民運動などが「阻害する行為」とされかねない。米軍の環境破壊を告発したチョウ類研究者の自宅を家宅捜索した県警の動きは、土地規制法の先取りとの警戒感が広がる。
「注視区域」の調査は、内閣府に新設する部局が公安調査庁など関係省庁と連携して行い、情報を一元的に管理する。調査する内容は国会に示さず、後に政令で決める。情報機関が肥大化し国会のチェックが働かない。
看過できないのは、個人の思想信条の調査について政府が「条文上、排除されていない」との認識を示したことだ。住民監視活動を法的に認めたのに等しい。法律が成立したことで監視対象が次々と広がる可能性がある。
政府は過去に重要施設への機能阻害行為が確認されていないことを認めている。立法を必要とする根拠がないことをあらためて強調したい。
【関連記事】