<社説>サンゴ移植許可撤回 工事を直ちに中止せよ


社会
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 名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立て予定区域内外のサンゴ移植について、県は沖縄防衛局に出していた移植許可を撤回した。許可に伴う条件を防衛局がほごにし、さらに県の行政指導にも従わなかったためだ。

 県は、サンゴの生残確率を高めるため高水温期や繁殖期、台風の時期を避けるよう条件を付けた。このまま移植作業が進めば、生残率が下がることを懸念し一刻を争うと判断、移植許可からわずか2日という異例の早さで撤回に踏み切った。当然の処置だ。
 条件には法的拘束力がある。それを順守しない国の姿勢は、菅義偉首相が官房長官時代から言う「法治国家」の在り方だろうか。辺野古埋め立てに反対する県民の民意を無視し、軟弱地盤の存在による工事の破綻を直視しない国の姿勢にも通ずる。自然環境や自治を破壊する埋め立て工事自体を直ちに中止すべきだ。
 サンゴの移植を巡っては、県が国を相手取った訴訟で敗訴が確定したため、県は防衛局が申請したサンゴ類約4万群体の移植を許可せざるを得なかった。その際、サンゴを守る観点から専門家の知見を基に「県サンゴ移植マニュアル」を順守するよう求めた。
 マニュアルに引用された論文を書いたサンゴ研究者の大久保奈弥東京経済大准教授は「サンゴ類は海水温が30度以上になると白化現象が進みやすくなる。移植には適さない時期だ」と指摘する。実際に新基地建設で2018年7月27日~8月4日の間に移植したハマサンゴ9群体中5群体が死滅しており、高温期がサンゴ移植に適さないことは証明されている。
 しかし防衛局は移植許可後、わずか1日だけの海水温で判断し、移植を強行した。県の行政指導に対し防衛局は、県が付けた条件は法令上の根拠に基づいておらず、水温を含め作業当日の現地の状況を確認の上、適切に移植を実施したと回答したという。
 この時期の移植が不適切であるにもかかわらず、移植を強行した国の姿勢は、サンゴを守る意思があるのかを疑わせる。そもそも移植の目的は水産資源保護法に基づき貴重な海洋資源を守ることである。国が定めた法律を自らほごにするのは許されない。
 沖縄防衛局は今後、行政不服審査法に基づき農林水産相に審査請求する公算が大きい。そうなれば、県の撤回は短期間で取り消され裁判に発展する可能性もある。最大の局面は、軟弱地盤改良のため国が県に申請している設計変更を、県が8月後半にも不承認にするとみられる決定だ。
 サンゴ訴訟で国の主張に反対した裁判官が言うように、特定の工事のみに着目し是非を判断するのは「木を見て森を見ず」である。不承認ならばサンゴの移植が無駄になる。辺野古沖は世界自然遺産と連続する貴重な海域だ。水産資源保護法の観点からも国は埋め立て工事を断念すべきだ。