コロナ禍は体の健康だけでなく、心の健康にも暗い影を落としている。厚生労働省の2021年版自殺対策白書によると、新型コロナウイルス感染拡大が起きた20年の自殺状況を過去5年平均(15~19年)と比べて分析した結果、女性の自殺が増え、その中でも「被雇用者・勤め人」が大幅に増えたことが判明した。
原因・動機については「勤務問題」が最も大きく増加し、その内訳では「職場環境の変化」が98.3%と大幅に増えた。白書は「新型コロナの影響による労働環境の変化が関連した可能性が示唆される」と指摘している。
コロナ対策で長期にわたる休業やコミュニケーション不足によって、職場での人間関係が希薄になった分、悩みや不安を打ち明けたり察知したりし、相談につなげられない現状が垣間見える。コロナ禍による窮状について悩みや不安を共有し、お互い支え合って乗り越えられるような職場環境への改善が急務だ。
20年の自殺者数は2万1081人で、前年比で912人増えた。男性は11年連続で減少したが、女性は2年ぶりに増加に転じた。年齢階級別で見ると、女性の20歳未満、20~39歳、40~59歳、男性の20歳未満で増加した。
働く女性の自殺者が増えた背景には、非正規雇用の拡大による不安定な雇用環境もあるとみられる。それにコロナ禍が拍車を掛けた可能性がある。政府は早急に実態を把握し、生活支援などの対策を講じるべきだ。同時にコロナによる生活不安に特化した相談窓口を設置するなど行政機関は、悩んでいる人が相談しやすい受け皿づくりに取り組む必要がある。
一方、学生・生徒の自殺も目立って増えた。20年3月の一斉休校要請直後には自殺者数は大きく減ったが、全国で学校が再開した6月には急増し、9月にも増えており、一斉休校や学校再開時期と関連している可能性がある。一斉休校で友達や教員との交流が減り、悩みを相談しにくくなったと指摘されている。
自宅にいることが増えて家族と衝突するケースや、学校や家庭に居場所がなくなった可能性もある。長引くコロナ禍は子どもたちの精神状態にも影響を与えている。家庭、学校、地域の連携が一層求められる。
沖縄でも自殺者が増えている。沖縄いのちの電話によると、20年の相談件数は前年比425件増の7140件で、そのうち「自殺志向」は1215件を占め、152件増えた。事務局はコロナの影響とみている。
自殺は防ぐことができる社会問題だ。自殺を考えている人は悩みながらも何らかのサインを発している。それに気付き、相談機関につなぎ、見守ることが肝要だ。気になる知人、友人、親戚などに一声掛けてみてほしい。絆をつなぎ留めることも、コロナ克服の重要な課題だ。