<社説>岸田政権の人権外交 国内の人権にも本腰を

 岸田文雄首相は、人権問題担当の首相補佐官を新設し、自民党の中谷元・元防衛相を就任させた。中国による香港や新疆ウイグル自治区での人権弾圧を念頭に、問題解決に向けて積極姿勢を示す狙いがある。背景には、欧米諸国が中国やミャンマーの人権侵害を問題視し、圧力を強める流れがある。日本も人権外交に同調する考えだ。

 一方で国内には著しい男女格差のほか、沖縄の米軍基地問題など多くの人権問題が存在する。政府はこれらにも真(しん)摯(し)に対応しなければ人権外交は説得力を持ち得ない。
 この際、国内問題にも本腰を入れるべきだ。人権保障という普遍的理念の実現への本気度が国内外で問われる。
 人権外交とは、世界で人々の人権が尊重されるよう、国際会議や首脳会談などで訴えていくことだ。日本が海外の人権侵害を批判するメッセージを出すことは意義がある。
 ただ、日本はこれまで他国との経済的関係を重視する傾向があり、外交政策で人権を前面に出すことには消極的だった。しかし中谷氏はその姿勢から踏み込み、人権問題に関与した外国の人物や団体に制裁を科すことが可能な日本版「マグニツキー法」(人権侵害制裁法)の制定を目指す考えだ。制裁には総合的な判断が必要だろうが、人権を重視することは評価できる。
 しかし問題は、国内でも人権が重視されているかだ。沖縄の過重な基地負担は県民にとって深刻な人権問題である。米軍絡みの事件事故は頻発し、騒音被害も著しい。国土面積のわずか0.6%の沖縄に米軍専用施設の7割が集中する過重負担は一向に解消されていない。
 翁長雄志前知事は2015年、国連人権理事会で「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」と訴えた。国連は沖縄の基地集中は人権問題として何度も改善を日本政府に勧告しているが、政府は無視し続けている。
 極め付きは、辺野古新基地建設に向けた埋め立てに投票者の約7割が反対した19年の県民投票の結果も無視していることだ。これは沖縄の自己決定権の侵害である。自身の将来を左右する重要なことは自らが決めるという自己決定権は、国際人権規約の第1条、すなわち一丁目一番地に位置付けられている最大の人権である。これを無視することは国際法上も許されない。
 国内では他にも、在日韓国・朝鮮人やアイヌの人々、性的少数者への差別など人権問題は山積している。人権外交を掲げるバイデン政権の米国も有色人種への差別など恥ずべき問題を抱えている。
 内政が駄目だから外国に言う資格はないという二分法に陥る必要はないが、人権外交を展開するなら、国内問題の解決もセットで取り組むべきだ。人権は普遍的理念である。外は駄目だが内はいいという二重基準は通用しない。政府はそれを肝に銘じてほしい。




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