<社説>嘉手納爆音4次訴訟 住民の権利救済今度こそ


社会
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 米軍嘉手納基地の周辺住民が、米軍機の騒音被害を訴えて夜間・早朝の飛行差し止めなどを求める嘉手納爆音訴訟の4度目の訴訟が、28日に提起される。原告数は3万5千人を超え過去最大となる。

 過去3次の訴訟で米軍機の飛行差し止めについては、日本の支配の及ばない第三者(米軍)の行為であり、活動を制限できないとする「第三者行為論」で退けられてきた。だが、壁に阻まれながらも繰り返し訴訟が提起され、そのたびに原告に加わる住民の数は膨らんでいる。
 原告規模の巨大化は、静かで安全に暮らす権利が脅かされる現状への切実な訴えであり、抜本的な手だてをとらない日米両政府への怒りに他ならない。受忍限度を超える違法な騒音被害を政治が放置するのであれば、司法が救済の道を明確に示すしかない。
 権利侵害を訴える住民の声に、裁判所は今度こそ正面から向き合うことだ。
 嘉手納基地周辺の騒音被害を巡っては、1982年に初めての訴訟が提起され、2000年に第2次、11年に第3次が提訴されてきた。いずれの訴訟も米軍機の飛行差し止めはかなわなかったものの、裁判所は騒音状態について「受忍限度を超えている」として違法性を認定し、国に賠償を命じている。
 第3次訴訟で国の支払いが確定した賠償額は2万2020人に対して計約261億2500万円に上る。
 もちろん損害賠償では根本的な解決にはならない。そもそも国の損害賠償といっても結局は税金である。賠償金を支払っていれば違法な騒音を発生させていいというものではない。また、裁判所は将来分の損害賠償については認めていないため、住民側も被害の賠償には裁判を繰り返さなければならない。
 問題は、判決後も違法な騒音被害を取り除く有効な対策が講じられていないことだ。常駐機に加えて外来機も頻繁に飛来し、嘉手納基地の運用はむしろ激しさを増している。夜間の離着陸を規制する騒音防止協定も“例外”がまかり通り、形骸化している。
 原告の求めは「静かに眠りたい」といったささやかな願いだ。憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定める。騒音の原因となる飛行差し止めに踏み込まずして救済はない。
 沖縄が日本に復帰して今年で50年になる。県民は日本復帰によって米軍支配を抜け出し、憲法が適用されると信じた。しかし、いまだに米軍基地から生じる被害や危険性に抑圧される現実がある。
 裁判所は日米安保と住民の権利が相反する問題になると思考停止し、第三者行為論で判断を回避してきた。それでは日米安保がある限り、沖縄は憲法の外に置かれてしまう。沖縄にも憲法が存在することを実感できる、独立した司法の裁定を望む。