<社説>原発処理水計画認可へ 「汚染水」放出は無責任だ


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 東京電力福島第1原発のトリチウム汚染水の海洋放出計画について原子力規制委員会が、安全性に問題はないとする「審査書案」を了承した。意見公募を経て7月にも正式認可するという。

 水素の同位体トリチウム(三重水素)は放射性物質である。希釈すれば放出してもいいということに、地元関係者をはじめ多くの人が疑問を持っている。周辺国からはトリチウム以外の放射性物質の除去が完全になされているかも含め、厳しい視線が注がれている。しかも、廃炉作業が続く限り生成が続き、排出量は増していく。漁業者が反対し、住民が懸念するのは当然だ。海洋放出は無責任だ。
 そもそも政府と東電は2015年に「関係者の理解なしには、いかなる処分水の処分もしない」と約束したはずだ。その後も東電は故障していた地震計の放置、核物質防護の不備など不祥事を繰り返し、信頼を回復できていない。理解を得るには程遠い。
 昨年政府が海洋放出を決定したのは、同原発の敷地内にタンク増設の余地がなくなるからだった。貯蔵が難しいという理由で結論ありきになっている。説明すべき事柄がいくつもある。
 矢ヶ崎克馬琉球大名誉教授(物性物理学)は「トリチウム水は普通の水と同じ性質だが、質量が大きい分、気化もしにくく生物濃縮も起きやすい。細胞内でDNAを傷つける可能性がある」と指摘する。東電が主張するように人体に影響はないと結論づけられるのか。詳細な疫学的分析が必要ではないか。
 原発では、トリチウムは格納容器内の冷却水が核燃料と接して生成される。基準濃度以下ならトリチウム水の放出は認められてきたという。冷却水の一部は外部に排出されていたのだ。福島第1の事故以前にそのような説明はされていただろうか。
 東電は、敷地内での長期保管は今後の廃炉作業のスペース確保のためにできないとする。敷地外での保管も、周辺地域にさらなる負担をかけるという。だからといって、海洋放出ならいいということになるのか。敷地確保やタンカーでの海上保管など、長期保管に向け検討すべきだ。
 トリチウム水が普通の水より質量が重いことを利用した分離技術がいくつか提案されている。東電は実用化段階にないとしているが、トリチウムの放出はないに越したことはない。政府は実用化を全面的に支援すべきだ。
 東電は「処理水」とするが、トリチウムが残る限り「汚染水」である。そして、何十年かかるか見通せない廃炉作業の間、汚染水は出続ける。トリチウムの放射線を出す能力の半減期は12・3年である。60年で10分の1以下になる。政府と東電は、汚染水の長期保管と分離技術の開発を廃炉作業の一部と位置付け、地域と国際社会に対して責任を果たす決意をすべきだ。