<社説>日米首脳会談 対中強硬では解決しない


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 岸田文雄首相とバイデン米大統領が会談した。西太平洋で軍事力を拡大する中国を念頭に、米国が核兵器と通常戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」を強化することで一致した。

 バイデン氏は歴代米政権の「あいまい戦略」を踏み越え、中国が台湾を攻撃した場合、台湾の防衛に関与すると明言した。中国をけん制する狙いがある。台湾有事に備え南西諸島で軍事力を強化するうちに、偶発的に沖縄が戦争に巻き込まれることを危惧する。
 「力の論理」に頼り対中強硬論を振りかざすのでは問題は解決しないだろう。岸田政権には中国と粘り強い外交努力を続けることによって、東アジアの安全に貢献することを強く求める。
 共同声明は普天間飛行場の「名護市辺野古移設」を含む在日米軍再編を進めることも確認した。在沖米軍基地の固定化など負担増大につながる恐れがあり受け入れられない。
 首脳会談は、台湾海峡の平和と安定の重要性について再確認した。バイデン氏は会談後の共同記者会見で、台湾有事が起きた場合に米国が軍事的に関与するかを問われ「はい。それが我々の約束だ」と発言した。
 日米は今年1月、南西諸島の自衛隊強化と日米の施設共同使用増加を発表した。台湾有事を想定した自衛隊と米軍の共同作戦は、初動段階で米海兵隊が南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を置くとする。軍事拠点化の対象は大半が有人島で住民が偶発的に戦闘に巻き込まれる可能性がある。
 岸田首相は会談で、日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費について「相当な増額」を伝え、支持を得た。「増額」とは、防衛費を国内総生産(GDP)比1%枠を超え、2%を目指すことを指すのだろう。しかし、日本の財政状況を見れば現実的でない。
 国債などの国の借金「長期債務残高」は2021年度末で1千兆円を突破した。国民1人当たり800万円の借金を背負っている計算だ。これだけの借金を抱えながら、防衛費増額のために、国民に我慢を強いて社会保障などを削るのか。
 両首脳は、核軍縮・不拡散に関する現実的、実効的取り組みを進め「核兵器のない世界」へ取り組むことで一致した。しかし、その一方で日本が米国の「核の傘」に依存し「拡大抑止」を強化するのは矛盾している。
 米軍の対中作戦は、南西諸島からフィリピンにかけた第1列島線内側への封じ込めを基本としている。このため在沖米軍基地の戦略的重要性は高まった。米国は第1列島線に核弾頭を搭載可能な中距離弾道ミサイル配備も計画している。このため沖縄が有事の際に標的になる恐れがある。
 ウクライナ侵攻を見ると、戦争に至らせない対話の持続がいかに重要かが分かる。日本に求められるのは最悪の事態を回避する外交力だ。