<社説>「骨太方針」決定 防衛費増ありきは問題だ


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 岸田政権で初の経済財政運営の指針「骨太方針」が閣議決定された。だが、岸田文雄首相が目指す国家像とリーダーシップが見えない。

 財源健全化が後退し、歳出増を伴う施策が並ぶ。特に防衛費は保守派の「圧力」で大幅増額を見込む内容に修正された。必要額を積み上げた結果ではなく最初から防衛費増額ありきは受け入れられない。軍事費を特別扱いした戦時中を想起させ、看過できない事態だ。
 「骨太」の焦点だった財政健全化では安倍晋三元首相率いる自民党の積極財政派に配慮した。国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指す時期を削除してしまった。さらに「政策の選択肢を狭めることがあってはならない」との文言を加えることで、歳出拡大の余地を残した。
 歳出拡大の一例が防衛費である。政府原案は「防衛力を抜本的に強化」と表記していたが、最終的に大きく変更した。ロシアのウクライナ侵攻を機に増額論が高まり、原案になかった「5年以内の強化」を書き加えた。北大西洋条約機構(NATO)加盟国が目標とする、国内総生産(GDP)比2%以上という記載を、脚注から本文に格上げした。
 防衛費の上限をGDP比1%にとどめた1976年の閣議決定を覆す思惑があるのだろう。安倍氏ら保守派の圧力に屈したと言われても仕方あるまい。
 GDP比を2%に倍増すると5兆円規模の予算が必要になる。どこに財源があるのか。今回の「骨太」は財源を明らかにせず、無責任のそしりを免れない。
 国家の借金に当たる「国債残高」は2021年度末で1千兆円を突破した。それでも安倍氏は「防衛費確保のための国債発行」を訴えている。その国債を「政府の子会社」(安倍氏)と位置付ける日銀に購入させるのだろうか。
 既視感がある。日中戦争と太平洋戦争の戦費は戦時国債で調達した。国民に国債を無理矢理買わせ、足りない分は日銀が直接引き受けた。調達した資金は臨時軍事費特別会計に組み込まれ、敗戦まで帝国議会に報告されることはなかった。軍にとって都合のいい財布だ。戦時国債は敗戦によって紙くずになった。
 5兆円あれば、大学の授業料や小中学校の給食費を無償化できる。1人当たり年金の支給額を増やすことも、消費税を現行10%から8%に引き下げることも可能だ。
 一方、「骨太」は「強い沖縄経済」の実現を掲げ、沖縄振興策を「国家戦略として総合的・積極的に推進する」と明記した。
 だが、沖縄経済の最大の阻害要因である基地の負担軽減に触れなければ画餅に終わってしまう。名護市辺野古の新基地建設や防衛費増額の先に、沖縄が再び戦場になる危険性が高まる。県民の命と暮らしを守らない「骨太」では困る。