<社説>海保巡視船実弾誤射 徹底した原因究明必要だ


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 あってはならない事故が起きた。宮古島市伊良部の長山港に停泊していた宮古島海上保安部所属の巡視船が、20ミリ機関砲の実弾8発を陸地に向けて誤射した。

 実弾の誤射は海上保安庁として初めてだ。機関砲の取り扱い訓練中に起きた人為的なミスだというが、実弾が発射できない状態になっているかを確認する安全対策はマニュアル化されていなかったのか。そもそも砲口を民間地に向けて銃器の訓練を行うことがあってはならないはずだ。組織全体で原因を徹底して究明し、厳格な再発防止策を示す必要がある。
 第11管区海上保安本部などによると、「巡視船しもじ」の乗組員らは19日午前8時半ごろ、機関砲の点検と弾薬箱に実弾を詰める給弾作業を行った。その後、男性船長の指示で機関砲の取り扱い訓練が実施された。
 機関砲は実弾が発射可能な状態にあったが、船長は発射されない状態と思い込んで「空撃ち」を指示し、実弾が発射されたという。
 20日の会見では、船長と乗組員との間で「意思疎通がうまくできていなかった」と説明があった。人を殺傷する武器を扱う者として緊張感と責任感が欠如している。実弾が発射できないよう連結が解除されていることを確認するのは訓練に際して基本動作のはずだ。組織に緩みがないか、早急に再点検すべきだ。
 発生当日は機関砲の点検時に誤射があったという説明だったが、翌20日の会見になって点検後の訓練中の誤射であったことが公表された。訓練で機関砲の照準は陸地の県道252号に隣接する草やぶに向けられていた。港の近くには航空燃料の給油施設などもある。人身被害は出ていないが、大惨事になってもおかしくなかった。
 宮古島海上保安部の福本拓也部長は「周辺には2隻の巡視船があり、人けのないやぶの草むらが安全だと判断し、砲を向けた。適正な判断だったかどうか調査中」と説明した。しかし「空撃ち」であろうと、民間地に向けて銃器の発射を指示することが適正だとは考えられない。明確な禁止行為とすべきだ。
 民間の長山港で機関砲の取り扱いが生じる背景に、尖閣諸島周辺海域における領海侵入への対処がある。海上保安庁は2016年、領海侵入する中国船の警戒強化を目的に、宮古島海上保安署を保安部に昇格させた。遊休化していた長山港を巡視船の拠点港にして9隻を配備してきた。
 21年には中国が海警局に武器の使用を認める海警法を成立させ、海保の領海警備が緊張を増していることは間違いない。だが、実際に尖閣周辺で武器使用となれば、南西諸島全体を紛争に巻き込む事態に発展しかねない。
 武器使用の想定を和らげるために、偶発的な衝突を回避する日中間のホットラインの開設を急ぐ必要もある。