<社説>乳がん検診 受診者増やし命を救おう


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 女性に最も多いがんで、日本人女性の12人に1人がかかる乳がんは早期に発見できれば、9割以上が完治するとされる。治療や予防に当たる医療関係者は「検診に勝る薬、治療はない」と強調する。

 だが、市町村が実施する乳がん検診の受診率は県内、全国平均ともに17~18%と低く、県が目標に掲げる50%台に程遠い。人間ドック、職域検診を合わせても県内の受診率は30%台にとどまるという。
 7割近くの女性が検診を受けていないことは深刻だ。
 10月は乳がんへの知識を広め、早期発見を促す「ピンクリボン運動」の推進月間だ。検診を受ける意識を沖縄社会全体で高めたい。
 9月にタレントで元プロレスラーの北斗晶さんが乳がんを公表し、右乳房を全摘出する手術を受けた。その衝撃は大きく、北斗さんが「たくさんの方が検診に行こうと思ってくれたら、何よりうれしい」とブログに記したこともあり、県内でも検診予約が増えている。
 乳がんは県内女性の死亡原因のトップだ。県内の専門医は40代から60代で患う人が多いと指摘する。精密検査が必要と診断された後、医療機関を受診する割合が全国の80%台に比べ、県内は70%台と低い。それは異変があるのに、みすみす症状が重くなる人が多いことを示す。改善を急がねばならない。
 経済的負担や自分はかからないという過信、無関心が発見遅れや重症化につながっている。乳がんの高い罹患(りかん)率と検診受診率の低さのギャップは救える命が救えなくなる要因であり、社会の損失だ。その悪循環を断ち切るため、まずはできることから取り組みたい。
 女性は着実に検診を受け、月に一度はしこりの有無などのセルフチェックを尽くしてほしい。子育てや家事を優先し、自分の健康を後回しにしてしまい、結果的に乳がんの発見が遅れて本人や家族が苦しむことは避けたい。
 男性の役割は大きい。妻やパートナー、家族が検診を受けるよう背中を押してほしい。県内でもゴルフコンペや自販機の収益を患者の会に贈るなど、検診受診を手助けする企業が増えていることは歓迎したい。
 行政側も受診日の拡大、低所得者層への告知など、未受診者への働き掛けを強める必要がある。医療機関、家族、職場など、社会を挙げて検診に足を運びやすい環境をつくり、救える命を増やしたい。