<社説>くい打ち改ざん 不安払拭に全力尽くせ


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 横浜市都筑区のマンション傾斜問題は、全国に大きく広がる可能性が出てきた。旭化成は、横浜市のマンションのくい打ちデータ改ざんに関わった担当者が関与したのは9都県41件だったと発表した。旭化成はこの41件を優先して不正の有無を調べる。

 旭化成は今回の不正に至った原因の解明と、行政も含め不正を見抜けなかった理由を明らかにしチェック体制を強化すべきだ。同時に、政府は他の事業者にもデータの改ざんがなかったかどうか調査し、国民の不安払拭(ふっしょく)に全力を挙げてほしい。
 マンション傾斜問題は、施工主である三井住友建設の孫請けの旭化成建材が、くい打ち工事をしたが、くいの一部が固い地盤(支持層)まで届いていなかった上、担当者による検査データ改ざんが発覚したものだ。その後、ほかの棟も含め、くいを支えるセメント量のデータ改ざんも判明した。
 男性担当者は横浜のデータ改ざんの動機について「(地層調査での)自分のミスを隠すためにやった」と説明しているという。
 ただ、打ち込み不足のくいの工事は工期終盤に集中している。大規模なマンション建設は元請けや孫請け、ひ孫請けと数百社が関わることもある「重層下請け構造」だと指摘される。このため立場の弱い孫請けに工期厳守の圧力が加わったことが不正につながったとの見方がある。旭化成の担当副社長も「工期についてナーバスだったかもしれない」と認めている。
 安全より納期が優先されたとするなら、個人の問題だけではなく、会社の責任、業界全体の問題として捉える必要がある。業界の構造的な問題だとすれば、ことは旭化成だけにとどまらない。全国各地の大規模建造物の安全性に疑問符が付きかねない。
 傾斜したマンションが建設された10年前は、元1級建築士が分譲マンションの耐震強度を実際よりも高く見せかける偽装が発覚した時期だ。耐震強度偽装は刑事事件に発展した。事件後、チェック体制が強化された。しかし、また不正が発覚した。
 今回の問題では着工前と中間検査、完了検査の3段階の審査で不正は見抜けなかった。旭化成側も「チェック体制が甘くなったかもしれない」と述べている。行政の審査体制が機能していたかどうか検証する必要がある。再発防止に向けた取り組みが急がれる。