<社説>米、核の傘強化へ 被爆国こそ廃絶先導を


社会
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 「核なき世界」という人類の願いが遠のいていく。米国は27日に公表した核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」で同盟国への「核の傘」強化を打ち出した。

 核使用を敵の核攻撃阻止や反撃に限る「唯一の目的」宣言も断念した。オバマ政権から追求してきた先制不使用の制限はまたも見送られた。
 ウクライナに侵攻するロシアが核使用を示唆する中、核への脅威は現実になりつつある。核保有国の考えを変えるには、世界各国の協調が必要だ。その中でも唯一の被爆国である日本には核廃絶を主張する責務がある。今こそ、その責務を果たすべき時期である。米国の「核の傘」に安住してはならない。
 2016年、現職の米大統領として初めて広島を訪れたオバマ氏は「(核保有国は)核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」と決意表明した。
 超大国のリーダーが示した意思により「核なき世界」が近づくと期待させた。だがオバマ政権は先制不使用の宣言を断念した。背景には北朝鮮の核・ミサイル開発や軍拡を進める中国脅威論など、日本をはじめとする同盟国の異論があったとされる。
 当時から米政権内には核軍縮は「日本による核開発につながる」との懸念があったという。バイデン大統領も、オバマ政権での副大統領時代、中国の習近平主席に「(日本は)一夜で核を開発できる」と訴え、東アジアでの核拡散を止めるためにも北朝鮮の核開発阻止へ中国の協力が必要と主張したとインタビューで明かしていた。
 トランプ前政権はさらに踏み込み、小型核弾頭の新規開発や使用制限を緩和して大規模サイバー攻撃にも反撃する余地を残した。
 核軍縮に前向きとされたバイデン氏には、オバマ政権以来の課題だった先制不使用の表明を期待していた。しかし核使用を示唆するロシア、台湾への軍事圧力を強める中国など安全保障環境の変化がそれを許さなかった。
 ひとたび核を使用すれば当事国だけではない世界の破滅につながる。広島、長崎では戦後77年たった今も原爆症に苦しむ人がいる。チェルノブイリ、東京電力福島第一原発の事故は周辺住民の暮らしを根本から破壊した。
 核保有国である大国には「抑止力」を主張する以前に、紛争を回避する外交交渉や核廃絶への道筋をつける責任がある。核兵器禁止条約締約国会議をはじめ、非保有国は常に門戸を開いている。「核戦争に勝者なし」という言葉を思い起こしてもらいたい。
 日本は核廃絶交渉の先頭に立つべきだ。米国の核の傘に依存するのではなく核廃絶後の未来像を描くために各国の橋渡し役を担ってほしい。廃絶への前提である「核は絶対悪」との共通認識が不可欠であり、被爆国日本だからこそ訴えに説得力を持つはずだ。