<社説>トマホーク導入検討 専守防衛の逸脱許さない


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 政府が、米国製で目標を精密に攻撃できる巡航ミサイル「トマホーク」(射程千キロ以上)の購入を検討していることが分かった。国産ミサイルの射程延長計画と合わせて、敵基地攻撃能力(反撃能力)の手段を多様化させようとしている。

 敵基地攻撃能力の保有は、専守防衛という日本の安全保障政策の大転換である。現在、与党で協議中で結論は出ていないはずだ。国会の議論も経ていない。
 民主主義の手続きを踏まず、既成事実を積み重ねる手法で専守防衛を骨抜きにするやり方は決して認められない。敵基地攻撃能力の保有は、米軍基地が集中し、自衛隊の「南西シフト」が進む沖縄が相手から標的にされる危険性を高める。軍備拡張の結果、偶発的な衝突に巻き込まれることを拒否する。
 トマホークは米国で開発された巡航ミサイルで、低空を飛ぶため、レーダーで捕捉されにくい。射程が長く精度が高い。米軍は湾岸戦争で初めて実戦に投入した。近年では化学兵器使用の報復としてシリアへの攻撃に使用された。
 政府は専守防衛の観点から、相手に壊滅的な打撃を与える「攻撃的兵器」の保有は認めないと説明してきた。トマホークを取得するなら、この見解から逸脱する。
 また自民党が提唱する「反撃能力」を持てば、これまで、「矛」は米軍、「盾」は自衛隊が担うとしてきた日米の役割分担を変更し自衛隊が米軍の「矛」に合流することを意味する。安全保障政策の大転換だ。攻撃対象はミサイル基地に限らず「指揮統制機能等」も追加され、際限なく広がる可能性がある。専守防衛との整合性がとれない。
 政府は尖閣諸島など島しょ防衛用の新型ミサイルとして配備を目指す「高速滑空弾」について、射程を千キロ超に延伸する改良も検討している。実現すれば中国沿岸部や北朝鮮を射程に収める。
 陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」を改良して千キロ程度に射程を延ばし、敵の射程圏外から攻撃する「スタンドオフ防衛能力」として整備する方針も固めている。
 政府はトマホーク以外の外国製ミサイル取得も検討している。防衛省は2023年度予算案の概算要求で、ノルウェー製の対艦、対地ミサイル「JSM」(射程約500キロ)や米国製の空対地ミサイル「JASSM」(射程約900キロ)の取得費を計上した。
 一体どれだけの敵基地攻撃能力を保有しようというのか。財源はどうするのか。国債や借入金などを合計した国の借金は国民1人当たりで1千万円を超えている。
 抑止力は、攻撃すれば、反撃されると相手に警戒させてこそ機能するとも説明される。しかし、抑止力と称する軍備拡張が周辺国を刺激して安全保障のジレンマに陥り、東アジアの安全保障環境が不安定になることを危惧する。