<社説>女児焼死再審決定 自白偏重捜査の根を絶て


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 娘を殺したとされた母親が20年ぶりに自由の身になって発した「汚名をそそぎたい」という言葉が重く響く。冤罪(えんざい)事件の温床になっている自白偏重捜査と、それを見極められなかった裁判を根底から改めるよう促す警鐘である。

 大阪市東住吉区で1995年、11歳の女児が焼死した火災をめぐり、殺人と現住建造物放火などの罪で無期懲役が確定して服役していた母親の青木恵子さんら2人が釈放された。
 大阪高裁が2012年の大阪地裁の再審開始決定を支持し、「無罪の可能性が高く、逮捕以来約20年にわたる身体拘束を続けるのは正義に反する」として、刑の執行停止も命じていた。大阪高検の執行停止に対する異議申し立てを高裁の別の判事が退けた。
 高裁の決定は出火原因について、「自然発火の可能性」を認定する一方、同居していた朴龍晧(たつひろ)さんが「放火した」と述べた自白の信用性を否定した。取り調べ時に「たびたび大声を出した」と認め、恫喝(どうかつ)を帯びた事情聴取で自白に導いた捜査を厳しく批判している。
 捜査段階の自白の信用性は崩れた。自白獲得にこだわり、物証による裏付けが甘かった大阪府警、検察の捜査が厳しく問われる。「事実上の無罪認定」(弁護団)に近い再審決定に従い、検察側は再審公判を一刻も早く開くべきだ。
 95年7月の民家火災で女児が風呂場で焼死し、保険金をだまし取る目的で放火、殺害したとして青木さんらが逮捕された。公判で無実を訴えたが、2006年に無期懲役の刑が最高裁で確定した。有罪判決で重んじられたのは朴さんの「車庫でガソリンをまき、ライターで火を付けた」という自白だ。
 弁護側は火災の再現実験などの科学的検証を尽くし、車庫に止めた車の給油口から漏れたガソリンが気化して風呂の種火に引火し、瞬く間に火の海になった。検察側の実験でも同じ状況が生じたが、検察側は「放火したという核心部分は信用できる」と居直った。
 火災の再現実験も怠り、客観証拠を軽視し続けた府警、検察の責任は重く、DNA型の再鑑定などではなく、直接証拠ではない実験に証拠価値を見いだした柔軟な裁判所の決定を評価したい。
 密室での自白獲得に固執した取り調べが冤罪と誤判を生み出し続けている。取り調べの可視化を広げる見直しが急務ではないか。